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ひゅんという音がした途端、目の前をなにかがかすめ、カツンと硬質な音がした。
思わず立ち止まってまばたきをひとつ。
視線を下へ動かすと、敷き詰められた石畳とは違う色合いの石があった。さっきのは、これが落ちてきた音だったのだろう。
落下による衝撃で欠けてしまった石を取り上げて確認すると、魔力切れとなった魔石だった。
どうしてこんなところに?
訝しむ私の耳にクスクスと笑い声が降ってきて、空を仰ぐ。校舎の三階にある窓辺にふたりの女生徒が立っており、こちらを見下ろしている。
その瞬間、衝撃が走った。空からとてつもない重力で押されたような感覚。
私はこの状況を、知っている?
前世でプレイしていた女の子向けシュミレーションゲームで、似たシチュエーションがあったような――
いやいや待て待て。決めるのは早計だ。
私は自分の姿を確認する。
漫画的デザインの制服は、赤茶色を基準にしたブレザータイプ。チェック柄のスカートは膝上丈で、つるりとした膝小僧が覗いている。ガサついた角質まみれのアラサーとは程遠い十代の肌に目を見張る。黒のハイソックスの先に、学校指定っぽい焦げ茶色のローファー。
うん、学生。
ポケットに入れてあるコンパクトを取り出すと、内側にはめこまれた鏡に自分の顔を写した。
肩にかかるピンク色の髪。クリッとした大きな瞳と出合って息を呑む。
いかにもな「ヒロイン」の姿。
よりによって主人公とか勘弁して。
姿形が日本人ではない時点で、これは『転移』ではなく『転生』だろう。
転生理由は。
「あー……。やっぱ死んだか。そりゃそうだよね」
思い当たった最後の記憶がよみがえり、命を落としたであろうことを納得する。
私は地元の土建会社に勤める事務員だったのだが、その日は訪れたお客様の案内に現場に出ていた。
少人数の職場なので、たまに応援に出ることはあるのでそれはいいんだけど、訪れた客がバカだった。
どこそこのお偉いさんの親族だという男は、よりにもよってノーヘル半袖で現場に入り、訳知り顔であちこち触って薀蓄を垂れる。一緒に案内を務めていた主任は愛想笑いを浮かべつつ必死で止めるも、「おまえ入社何年だ」だのとクソみたいなマウントを取ってきて逆ギレする始末。私に対してもセクハラかましまくってきて、「なんでスカートを履いてないんだ、生足を見せろ」とかアホみたいなことを言ってくる、絵に書いたようなクソだった。
私たちが「さっさと終われ」と祈る中、客の男はついにやらかしたのだ。
どこをどう触ったのか私にはわからないけど、主任は血相を変えたので相当ヤバイことをやったんだと思う。
上から落ちてきた砂利。
自然と見上げた頭上。
何かが落ちてくる。あれはなんだろうと考えているあいだに迫ってきた視界いっぱいのそれに、私はおそらく潰された。
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