バースデーケーキ  理想的な家族10ー小太郎

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「ほらほら、早く座って」  今年の誕生日には、ママもいてくれる。  はしゃぐ娘の前に、デコレーションしたばかりのバースデーケーキを置くと、娘は歓声を上げた。 「おお、美味しそう」  そう言って、妻は大きなおなかを支えながら、椅子に座った。  今日は娘こころの十歳の誕生日だ。一人娘の誕生日ですら、母である良子はなかなか家にいることができない。去年も一昨年も、こころの誕生日は、小太郎とこころ二人で祝った。  今年、こうして三人そろってケーキを食べられるのは、良子のお腹にこころの弟がいるからだ。来月が予定日で、良子は仕事を休ませてもらっている。良子が半ば強引に、産休を勝ち取ってきたらしい。  それでも、十年前は考えられなかった待遇だと三人で喜び、ここぞとばかりに家族生活を楽しんでいた。  ろうそくを十本も立てると、ケーキが穴だらけになってしまうからと、長いローソクを一本だけ立てた。ローソクに火を灯し、部屋の明かりを消すと、ユラユラと三人の顔がローソクに火に照らし出された。  小太郎がハッピバースデーの歌を歌い出し、少し遅れて良子も歌い出す。  そういえば、こころが一歳の誕生日は、良子はほんの二時間しか家に滞在することが出来ず、あわてて誕生日会をしたことがある。  良子はハッピバースデーの歌を歌ったことがないから分からないと、小太郎の後についてたどたどしく歌っていた。ケーキを囲んで祝われたことも、祝ったこともないのかと、心が痛んだのを覚えている。  十歳の誕生日は、二人に歌ってもらえて、こころは嬉しそうだった。歌が終わると、タイミングよくフッと一息でロウソクの火を吹き消した。
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