バースデーケーキ  理想的な家族10ー小太郎

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 小太郎は閉店後の店の後片づけを終え、ゴミを大きな黒い袋にまとめると、裏口に出しに行った。まだ見習いである小太郎は、店が閉まった後も、まだまだ仕事が続く。  今思えばベタな話だが、彼は裏口に身を潜めて、小太郎を待ち構えていた。 「おい」  重たいゴミ袋を、ようやく定位置に置いた小太郎は、低い声で呼びかけられ、振り返って初めて、そこに人が立っていることに気が付いた。ごく普通のティーンエイジャーに見える若い男が、店の壁にもたれていた。  だが、小太郎は動けなくなった。  彼は殺気とまではいかないにしても、それに似た敵意と緊張感を纏っていた。  彼はゆっくりともたれていた壁から体を起こし、こちらに歩いてきた。  小太郎も背が低い方ではないが、彼は更に高かった。彼は小太郎に覆いかぶさるように、身をかがめた。 「リョーコが子どもを産む」  小太郎は何を言われたのか分からなかった。呆けたように彼を見上げ、目を(しばた)かせた。  彼の目にはっきりと殺意が灯った。 「リョーコはお前との子だと言っている。身に覚えはあるか?」  その時、世界の色が変わった。
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