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「りょうちゃんは、なんて言ってる?」
溢れそうになる感情を押し殺してそう訊ねると、彼は奇妙な顔をした。
なんだろう……蔑みと羨望と嫉妬、そして、共感?
「リョーコは絶対に産む、と言っている」
彼はまっすぐ小太郎を見ていた。
先ほどの奇妙な顔は一瞬で消え、その目はただ小太郎を見ている。
そうか、と小太郎は納得した。
彼は良子のことを大切に思っている。
そして、小太郎を試している。
「りょうちゃんのこと、好きなんだね」
小太郎も真っすぐ彼を見て言った。彼の顔が一瞬で殺気立つ。
でも、ここで引くわけにはいかない。
小太郎も彼の名前を知っていた。以前、ポロリと良子が漏らしてしまったことがあった。ひた隠しにしているもう一つの良子の世界の中から、こぼれてきたその名前は、良子の中で特別なのだと、小太郎は直感で分かった。
「カイト」
呼ぶと、相手は心底驚いたように、目を丸くした。
構わず小太郎は続けた。
「良子とお腹の子は、誰にも渡さない。僕の妻と子どもだ。絶対に手を出すな」
恐らくカイトが小太郎を殺そうと思ったら、一瞬だろう。震えそうになる足を宥めようと腹に力を入れる。決して目を離さないように、カイトを見つめていると、見上げているせいで睨みつけるような形になった。
カイトはフッと目線を外した。
「俺の名前を知っているとは思わなかった」
その声が傷ついているような気がして、小太郎は思わず力が抜けそうになった。
「残念だけどな、リョーコはお前を頼ろうと思ってない。子どもを産んで、信頼できる人に預けようと思っている。自分と繋がっていては、巻き込んでしまうと思っている」
「そんな!」
足元から崩れそうになって、小太郎は踏ん張った。
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