バースデーケーキ  理想的な家族10ー小太郎

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「りょうちゃんは、なんて言ってる?」  溢れそうになる感情を押し殺してそう訊ねると、彼は奇妙な顔をした。  なんだろう……蔑みと羨望と嫉妬、そして、共感? 「リョーコは絶対に産む、と言っている」  彼はまっすぐ小太郎を見ていた。  先ほどの奇妙な顔は一瞬で消え、その目はただ小太郎を見ている。  そうか、と小太郎は納得した。  彼は良子のことを大切に思っている。  そして、小太郎を試している。 「りょうちゃんのこと、好きなんだね」  小太郎も真っすぐ彼を見て言った。彼の顔が一瞬で殺気立つ。  でも、ここで引くわけにはいかない。  小太郎も彼の名前を知っていた。以前、ポロリと良子が漏らしてしまったことがあった。ひた隠しにしているもう一つの良子の世界の中から、こぼれてきたその名前は、良子の中で特別なのだと、小太郎は直感で分かった。 「カイト」  呼ぶと、相手は心底驚いたように、目を丸くした。  構わず小太郎は続けた。 「良子とお腹の子は、誰にも渡さない。僕の妻と子どもだ。絶対に手を出すな」  恐らくカイトが小太郎を殺そうと思ったら、一瞬だろう。震えそうになる足を宥めようと腹に力を入れる。決して目を離さないように、カイトを見つめていると、見上げているせいで睨みつけるような形になった。  カイトはフッと目線を外した。 「俺の名前を知っているとは思わなかった」  その声が傷ついているような気がして、小太郎は思わず力が抜けそうになった。 「残念だけどな、リョーコはお前を頼ろうと思ってない。子どもを産んで、信頼できる人に預けようと思っている。自分と繋がっていては、巻き込んでしまうと思っている」 「そんな!」  足元から崩れそうになって、小太郎は踏ん張った。
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