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どうするかとカイトに訊かれて、小太郎は「日本で子どもを育てる」と即答した。
カイトが何と言おうと、それが良子の望みだと知っていたからだ。
カイトは小太郎の答えを聞くと、しばらく天を見上げた後、深いため息をついた。
「一つ約束しろ」
小太郎は黙ってカイトを見た。
「リョーコを不幸にするな」
「しないよ」
小太郎は即答したが、「幸せにしろ」ではなくて「不幸にするな」という言い方に、頬を叩かれたような気がした。
良子の人生はこれまでも、これからも、困難なのだろう。すぐに不幸の坂を転がり落ちてしまいそうなところにいる。もしかしたら、小太郎と子どもの存在が、不幸の種になるかもしれない。
だから「不幸にするな」と言う。
「しないよ」
小太郎はもう一度言った。
「僕たちは幸せになる」
そう言ってやると、カイトはフッと笑った。
「じゃあ、十年後、リョーコが幸せじゃなかったら、お前も子どもも、俺が殺しに行くから」
軽い調子でカイトは言ったが、その目は笑っておらず、嘘でも冗談でもないのかもしれない、と思った。
「分かった。いいよ」
小太郎は本気で答えた。
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