バースデーケーキ  理想的な家族10ー小太郎

8/11
前へ
/11ページ
次へ
 どうするかとカイトに訊かれて、小太郎は「日本で子どもを育てる」と即答した。  カイトが何と言おうと、それが良子の望みだと知っていたからだ。  カイトは小太郎の答えを聞くと、しばらく天を見上げた後、深いため息をついた。 「一つ約束しろ」  小太郎は黙ってカイトを見た。 「リョーコを不幸にするな」 「しないよ」  小太郎は即答したが、「幸せにしろ」ではなくて「不幸にするな」という言い方に、頬を叩かれたような気がした。  良子の人生はこれまでも、これからも、困難なのだろう。すぐに不幸の坂を転がり落ちてしまいそうなところにいる。もしかしたら、小太郎と子どもの存在が、不幸の種になるかもしれない。  だから「不幸にするな」と言う。 「しないよ」  小太郎はもう一度言った。 「僕たちは幸せになる」  そう言ってやると、カイトはフッと笑った。 「じゃあ、十年後、リョーコが幸せじゃなかったら、お前も子どもも、俺が殺しに行くから」  軽い調子でカイトは言ったが、その目は笑っておらず、嘘でも冗談でもないのかもしれない、と思った。 「分かった。いいよ」  小太郎は本気で答えた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加