026:ゴブリン

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026:ゴブリン

 近づいてきているゴブリンの気配を感じ取った俺は、皆にそれを知らせる。するとラーダとジャックも気がついたようだ。 「カセの気配察知は俺たちより広いのか」  まぁ大した差ではないようだが。20メートル。あちらもこちらに気がついたようだ。まっすぐこちらを目指し始めた。数は5。あまり時間がない。そろそろ藪をくぐり抜けるはずだ。  ラーダが指示を出す。 「カセ。ハル。やってみてくれ」 「了解」  俺は銃口を藪の方へと向ける。ハルはまだ索敵スキルが無いために銃を構えただけ。  そして、ちょうどガサガサと草木をかき分けてゴブリンが顔を出した。俺はハルに指示を出す。 「ハル。3体だ。俺は2体やる」 「了解」  ハルの方がレベルが低いので数をこなさせることにした。  そして俺とハルが狙いを定めて、それぞれ発砲。距離は10メートルもない程度になっている。藪から出てきて向かってくるゴブリンを適切に排除していく。ハルより先に目標をクリアしたので、ハルの方に気をやってみたが、ちょうど彼女も目標を達成する所だった。  うん。まぁこんなもんだろう。  ラーダとジャックへ視線を向ける。 「おう。あっという間だな。ゴブリンを苦にしないのは有り難い」  いちおう聞いてみる。 「この子鬼。ゴブリンはどの程度の魔物なんだ?」 「うん? そうだな。戦闘経験のない成人男性でも武器を持っていれば一対一で倒せる程度だな」  その程度なら…… 「だが、油断をすると怪我をすることもある。例えば数で襲ってきて、噛みつかれて、肉を食いちぎられたなんて話も聞く」  その辺は野生動物と一緒だな。 「オオカミとどっちが強い?」 「う~ん、条件とかで色々変わるが、危険度で言えばゴブリンだ。好戦的という意味でだな。嗜虐性もあって腹が減っていなくても襲いかかってくるから。オオカミが狩りをするのは食べるため。それ以外だと子供が居る時期とかで気が立っているとかな。そうでなければ、そうそう襲いかかってこない。そうだな。オオカミ一匹とゴブリン一匹なら、オオカミのほうが強いだろうな。やはりスピードが違う。群れの場合でもオオカミの方が統率が取れているという意味では危険だ。でも人里が近いところにいるオオカミは人間の危険度を知っているから、まぁ滅多には襲ってこない。だから、やはり危険度は低い」  ということは、この森にいるオオカミは襲いかかってくる可能性が高いのか。そう尋ねてみれば、ラーダは頷いた。 「そうだな。まだ人間の脅威度を把握していないから。襲いかかってくるだろうな。それを知らしめるためにオオカミも狩ってはいるが、まぁ、その辺は出会ったら狩る程度で良いだろう。その点。ゴブリンは積極的に狩った方がいい魔物だ。人間を恐れない。それどころか嬉々として襲いかかってくるし、繁殖力も高いから」  ラーダは続ける。 「この開拓村では、まだ家畜を買う予定がない。そこまで余裕がないからだが、だからオオカミは害獣になりえない。人間を襲う怖さを把握させれば、むしろ益獣になるはずだ。ゴブリンも狩ることがあるからな」  なるほど。日本でもオオカミの絶滅が原因で鹿が大繁殖。それで山や作物が荒らされる原因にもなっているからな。 「分かった。ありがとう」 「おうよ! 気になったことがあったら何でも聞いてくれ。答えられるものは答えるからよ!」  このラーダという男。思った以上に学がある。  どこでそれらを学んだのか気になるところだが、まぁ今はいいだろう。いずれその辺も話す機会があるだろう。  って、パーティを組む前提になって物を考えている自分が居るな。  でも……  ラーダは何が目的で俺たちに近づいたのだろうか。  それが気になるところではあるな。
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