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028:事後処理
戦闘が始まって10分もしないうちに辺りには死体の山が出来ていた。ラーダが鼻唄を歌いながらこちらに戻ってきた。
「いやぁ。ずいぶんと寄ってきたな!」
ごきげんな様子だ。俺は大きく息をつく。
「ふぅ。びっくりしたぁ」
「あっはっは。もしハルと二人だったら死んでたな」
正直な意見に苦笑い。だが事実でもある。ニホンザルほどの大きさの敵だが、それでもこの数では押し切られてしまっただろう。
「助かった、というべきか。ありがとう」
するとラーダは少し驚いた様子で「いいさ。気にするな」そう言って俺の肩を叩いたのだった。
「さて。こいつらの解体って……」
「あぁ。胸を開いて魔石を取るだけだ。ちょいとこの数は手間だが、今日の宿のためだ。頑張ろう」
ラーダはそう言って、手近にあったグリーンエイプを手に取った。俺は、ハルの格納に入れて後日にでも解体すればいいかな? とも思ったが、さて……
ハルの格納の能力。見せても良いものかどうか迷う。だが今はまだ見せないことにした。どうしても警戒が先にくる。ハルを見る。ハルが何かを言おうとした所で、俺は首を左右に振った。
「ハル。解体をしよう」
格納はしないと暗に伝える。そしてそれはハルにも伝わったようだ。
「はい」
そう言って、大人しく解体を始めたのだった。
※
※
※
解体を終えたのはそれから30分ほど経った頃だった。戦闘10分。解体30分。中腰でやったので、さすがに疲れた。
グリーンエイプの魔石は全部で30体を超え、32あった。
「多すぎ……」
ハルがボヤいている。だが俺も正直そう思う。
さて、レベルは幾つ上がっただろうか。ステータスを確認してみる。
加瀬・・・レベル14
能力ポイント7
異世界言語=1
読み書き=1
年齢=-2歳
キャッシュ=1回
索敵=1
銃の静音性=1
おぉ!一気に7も上がった。ハルを見る。彼女もニンマリ笑っている。
「どうだ?」
「はい! 7上がってます!」
ほぉほぉ。俺と同じか。
俺とハルがニマニマしているとラーダが近づいてきた。
「レベルとやらは上がったか?」
「あぁ。7つ」
「よし。取得は宿でやってくれ。今日はもう帰ろう」
俺はラーダとジャックをみる。まだまだ余裕そうだ。
「二人はまだまだ大丈夫そうに見えるが?」
「あぁ。だがカセとハルは慣れない戦闘で疲れたろ?」
「疲れてはいるが、レベルが上ったことを知ったら疲れが吹っ飛んだよ」
「はっは。そうか。だがまぁ回復したわけじゃないからな。気分が高揚してそう感じているだけだ。だから今日はもう帰ろう」
気遣いが有り難い。
「分かった」
俺は頷く。
しっかし、だ。
俺は森を舐めていた。
正確にはこの世界のを、だ。
まさか、これだけの数の敵が襲ってくるとかは想定していなかったわ。
マジで、ラーダとジャックが居てくれてよかった。
でもなぁ……
う~ん。やっぱり気になるのは、二人が俺たちに声をかけた理由だ。
以前に民俗学系の本で読んだことがある。それは民俗学者の体験談だ。
学者が、とあるコミュニティに接触した際に、外部の人間である自分達に寄ってくる人物は、そのコミュニティに馴染んでいない人物である可能性が高い。とあった。
でも、じゃあラーダとジャックがそうかと言われると、そうは思わない。
つまりこの二人。何らかの思惑が合って俺たちに近づいてきたのだろうと予想ができる。
ただの善意の可能性もありはするが。それならそれで有り難いと思うだけだ。そうじゃなかった場合のことを考えて行動するほうが、何かあった時に対応できるだろうと言うだけの事で。
魔物も怖いが、人間も同等以上に怖い、ということだな。
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