62人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
034:エルフ
食堂に到着するとそこには、ラーダとジャックがいた。俺たちを見て手を振りかけ、固まった。
当然、俺の後ろ。ハルの隣に居るエリスさんを見てだろう。
ラーダもジャックも小さく「エルフ……」と呟いた。俺は彼女を2人に紹介する。
「エリスさんだ。えっとぉ、ミネル氏族のウバの娘さんだ、そうだ」
ラーダとジャックが顔を寄せ合い話し合っている。
「森エルフか?」
「いえ。多分、違うと思います」
二人の様子がおかしい。俺は率直に聞いてみた。
「あ~。どうしたんだ。二人共?」
するとエリスさんが前に出て言った。
「たぶん、私がエルフなので驚いたんだと思います」
「あ~、驚くほど美しいもんな」
俺の言葉にエリスさんが苦笑いを浮かべた。それを見てラーダとジャックも苦笑い。
「あれ? 俺、なんか変なこと言ってる?」
するとラーダ。
「まぁ、異国人のカセもハルも、この国の事情には疎いだろうからな」
そう言ってラーダはジャックを見る。ジャックが説明をしてくれた。
「エルフには大きく分けて2種族。森を捨てたエルフと、森を護るエルフがいると言われています」
ジャックがエリスさんを見る。エリスさんは微笑んでいるだけだ。
「森を捨てたエルフは人間の街で暮らしていますが、その……」
言い辛いことのようだ。それを見てエリスが言った。
「基本的に王国民ではないというのが主流な考えです。2等市民。下層民と言う感じで……」
ジャックは申し訳無さそうな顔をしている。それを見てかエリスが言った。
「カセさん。ハルさん。ありがとう。食事はまた今度にしましょう」
そう言ってエリスさんは出口へ独りで歩き出した。俺はその寂しそうな背中を見て思った。ここで引き止めなきゃきっと永遠にお別れだ。それは、何だか凄く嫌だ。
「エリスさん!」
呼び止めた俺の声に、静かに振り返るエリス。引き止めたは良いが果たして止められるか?
そう思って一瞬躊躇した。するとそこにハルが割って入った。
「エリスさん。一緒に食事をしましょう!」
エリスの目が見開かれる。俺もそれに乗っかる。
「奢りますよ」
沈黙と静寂が食堂に降りた。するとそこにラーダが苦笑いを浮かべながらも一言。
「おい。カセ。お前、今は金がねぇだろ。誰が奢ると思ってんだ?」
あっ、そうだった。俺はラーダを見る。ラーダも俺を見ている。そして根負けしたようにラーダが言った。
「エリスさんよ。一緒に食おう」
するとエリス。
「良いんですか?」
「あぁ。俺らのリーダーが良いって言ってんだ。なら問題ない」
えっ?
「リーダー? 誰が?」
「お前だ」
「いや。ここはラーダのほうが良いだろう? 経験が上だし」
「年齢はお前さんの方が上だろう? はっは。まぁいいさ。その辺のことは追い追い決めよう。とりあえず、飯。食うんだろ?」
こうして、俺たちはご飯を一緒に食べたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!