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035:差別
奇妙な空間、といえばいいのか。微妙な空気といえば良いのか。まぁそんな雰囲気で食事となった。ハルはどうやらエリスさんに興味があるようだ。
まぁ俺も気になるところではあるので、ここは物怖じしないハルに対応を任せて聞き役。またはツッコミ役をさせてもらおう。
「へぇ。弓と魔法に剣も使うんですねぇ。なんか凄い」
「まぁ独りでハンターとして生きようと思うとどうしてもそうなりますね」
「どうして独りなんですか? 誰かと組まないんですか?」
ハルの何気ない一言。それに対して寂しそうに笑うエリスさん。
「以前は幼馴染と組んでいたんですけどね。20年前に亡くなりました」
「あう。ごめんなさい」
「いえ。もう20年ですからね。そっかぁ20年も経ったんだぁって」
「20年前……えっとぉ、今って何歳なんです?」
「48歳になります」
「おぉ! 美魔女だ」
バカハルが何か言っている。
「魔女? いえ、違いますよ?」
俺は苦笑いを浮かべながら説明する。
「美魔女ってのは俺の国に居た、年齢を重ねてはいるけど、見た目が若々しく美しい人のことをそう呼んでたんです」
するとエリスは頷いた。
「ふふ。では、ありがとうございますと言っておきます」
ハルの質問が続く。
「エルフって皆、そうなんですか?」
エリスは首を傾げる。
「どう、何でしょう? 私からすると皆、年相応に見えるんですけどね」
するとジャックが入ってきて訂正した。
「エルフの見た目が基本的に若々しく美しいというのは、あくまで人間基準のようですよ。エルフ同士だと、ちゃんと年相応に見えるそうです」
ハルが感心したように言う。
「へぇ。そうなんだぁ。ジャックもよく知ってるね!」
するとジャックは真っ赤になった。
「い、いえ。ちょっと習っただけですから……」
「うぅん。ちょっと習っただけでも、ちゃんと覚えているんだから凄いよ」
「え、あ、はい。あはは。ありがとうございます」
そう言って小さくなるジャック。場が少し和んだ。が、やはりそこはハル。
「えっとぉですね。気になったことがあるんですけど」
「はい」
「何でエルフは差別的な扱いを受けているんですか?」
再び場が凍る。するとジャックはラーダを見た。ラーダが頷くとジャックが話し始めた。
「この国に奴隷が居るのは知っていますか?」
「えっとぉ、ごめん。知らない」
「この国の奴隷は基本的に犯罪奴隷か戦争奴隷のどちらかなんです」
「うん。でもエルフは奴隷じゃないよね?」
「そうです。ただ歴史を見ると違います。いまから200年ぐらい前の話になります」
そう言ってジャックが歴史を語りだす。
「今から200年前。この国に神護の森という聖域がありました。そこを当時のエルフが護っていたのですが、人間が開拓のために攻め入り、そこに住んでいたエルフと争いになりました。そして多くのエルフが戦争奴隷に。それから100年ほどして解放されたエルフは、街に住むエルフとして暮らしています」
エリスが頷く。
「私はそのエルフが生んだ第1世代の子です。奴隷ではありませんが、解放奴隷の子として。その差別の名残が今も残っている。と言う感じです」
ハルが幾つか疑問に思ったようだ。
「森には帰らなかったんですか?」
「帰ろうとしたけど、森に入れてもらえなかったそうです。人の匂いの染み付いた穢れがあるとして」
「えっとぉ、エルフの寿命って何歳ぐらいなんですか?」
「そうですね。私の居たところでは130年ほどの老人がちらほら。160歳になると長老扱いです」
「わぉ。だいたい人間の2倍から3倍ぐらいかぁ」
ハルが俺を見て言った。
「何だか凄いですね!」
「そうだな」
俺からするとハルも大概凄いと思うがな。こんな繊細で微妙な話題を聞き出すとは……
屈託なく、物怖じしない性格なのは有難いことだ。
でもそうか。種族による差別があるのか。エリスさんを見る。何でも無いことのように語ってはいるが、実際のところ何を思っているのかは分からない。まだそこまでは踏み込めない。
でもいつか。彼女と本音で話し合えたらなと思う自分がいる。
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