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036:誘ってみた
食事を終えた。朝からヘビーな内容に胃もたれが……
俺がそんな事を思っている横でハルがエリスさんに声をかけている。
「エリスさん」
「はい?」
「一緒に狩りに行きませんか?」
おいおい。そんな気軽に誘うようなことじゃないだろ。でもそうか。エリスさんは独りなんだよな。この森で独りで狩り。危ないよな。
俺も声をかけようとしたが、しかしエリスさんにキッパリと言われた。
「いえ。さすがにそこまでは一緒できません。すみません」
ならばとばかりに俺は次回の予定をねじ込む。
「それなら今日。狩りから帰ってきたらでいいので夕食はどうですか? 今度こそ俺が奢りますよ」
後ろでラーダが苦笑いを浮かべているだろうなとは思ったが、俺は別に気にしない。するとエリスさんが笑顔で頷いた。
「はい。それでしたら、ご一緒します」
そう言って彼女は去って行った。これから森へ行くのだろう。しばらくその後姿を見送っていたハルと俺に、ラーダが言った。
「よほど気になるらしいな?」
俺は頷く。
「めっちゃ好みだからな」
「見た目か?」
「中身もだ。見た目もだから両方だな」
「でもエルフだぞ? 種族間の問題がある」
「差別問題か? 俺は気にしないが?」
「う~ん。それもあるが。それだけじゃないな。寿命の問題がある。全然違うんだ。カセが仮に後20から30年生きたとしても、エリスさんは長ければ100年ぐらい生きるぞ? カセが確実に先に逝くんだ。置いて逝かれると分かっているエリスさんが了承するとは思えない」
「俺が死んだ後に、また伴侶を探せば良いじゃないか?」
「どうだろうな。エルフの死生観や人生観。恋愛観や結婚観と言った価値観がどうなっているのかは知らんが、障害が多いことはまちがいないな」
「年齢問題ねぇ」
正直それを解決する術が俺にはある。ステータスだ。これで年齢を今ぐらいで維持すれば彼女とともに、同じ時間を歩める……はずだ。勝機がないわけじゃないのだ。だがそれは、黙っていよう。
場合によっては俺は不老になるからだ。レベルに上限がない場合の話、俺はポイントを得られる限り、老いで死ぬことはないということになる。
不老。人が望む物の一つだ。特に権力者とか。
なのでこれに関しては黙っていたほうだ良いだろう。俺はラーダにハッキリと言った。
「まぁそれもこれも彼女に、俺という人間に興味を持ってもらうところからだ。難しいことは後で考えるさ」
そんな俺の言葉にハルが反応した。
「おぉ。カセさんがド~ンとした」
「あぁ。お前が言ったんだろ? 俺はド~ンとしてれば言いって」
「ですね。男性はド~ンとしてると頼り甲斐があるように見えて魅力が上がりますよ」
「だそうだぞ。ジャック」
「え! あぁ。えぇそうですね。はい。頑張ります! ところどド~ンってなんですか?」
そんな俺達のやり取りを見ていたラーダが大声で笑い、ジャックの肩をバシバシと叩くのだった。
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