037:ダンジョンへ行かないか

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037:ダンジョンへ行かないか

 森を探索し始めてしばらくした頃。先頭にラーダ。その次に俺。後ろをジャックとハルが並んで歩いていたところ、前を向きながらではあったがラーダが肩越しに俺に話かけてきた。 「なぁ。森の探索が一区切り着いたら、ダンジョンへ行かないか?」  ダンジョン? 「ん? どうしたんだ? 突然」  まぁ興味はあるが。俺は突然の提案に驚く。するとラーダが少し困ったように言った。 「あ~。実はなぁ俺たちが未開拓地に来たのは信頼ができる仲間を求めてなんだ」  そう言ってラーダは頭を掻く。 「まぁ当初の予定とは少し違ってしまったが……な」  ジャックがハルに一目惚れしたんだよな。 「それでも、だ。カセもハルも充分信頼に値する仲間だとは思ってる」 「それはありがとう。で?」 「おう。だからダンジョンだ。富と名声を求めて行ってみねぇかと思ってよ」  富と名声ねぇ。要らなくはないが特別、欲しいとも思わない。日々の生活を困らず、それでいて将来に備えて貯蓄ができる程度の稼ぎがあれば、それで充分だ。 「ん? ダンジョン周辺では探さなかったのか?」  ちょっとした疑問を尋ねてみたんだが、驚くような答えが返ってきた。 「ダンジョンに入る連中は皆、一攫千金を夢見て来ている連中だ。みんな欲望でギラギラしてんのさ。だから正直な話。信頼できる仲間を探すには向いてないんだ。皆が皆、誰かを出し抜くことを考えていると言って良い」 「そんな大げさな」 「これが、そうでもないんだ。探索者仲間たちの間じゃ常識だ。仲間を探すならダンジョンから外れた場所でが一番だってな」 「へぇ。それで俺たちを?」 「そうだ。カセもハルも、ずっとこの開拓地で活動って訳ではないんだろ?」 「あぁ。まぁなぁ」  正直、稼ぎが微妙だ。将来への貯蓄という意味ではかなり厳しい。 「何か目的とかってあるのか? 今後の目標みたいな」 「あ~。まぁ無くはないが……」  少し迷ったが、ある程度ぼかしてなら話しても大丈夫だろうと判断。 「実はな、国に帰る方法を探しているんだ」 「え、マジで? って、ん? 国に帰る方法?」 「あぁ。どう言ったら良いか。俺もハルも好きでこの国に来たわけじゃないんだ」  俺の言葉にラーダが驚く。 「おいおい。マジかよ。でもじゃあなんで?」 「完全に不可抗力だったんだ。気が付いたらこの国に居た、みたいな。な」 「えっと、誰かに無理やりにでも連れてこられたのか?」 「まぁそんなところだ」 「だから国に帰る方法を……え、帰るのか?」 「正直、今すぐにとは思っていない。それに……不可抗力で来たけど、ここが面白いと思っているのも事実なんだ」 「あぁ」 「俺はともかく、ハルには帰りを待っている両親がいるからな。ハルの父親にはお世話にもなっていたし。ハルを可愛がっていたのも知っている。それを思うと、な」  ラーダが悲痛な表情で沈黙する。俺は言葉を続ける。 「ただ、とはいえだ。ハルも大人だ。添い遂げたい人が出来たら、そっちを優先するかもしれん。それに一応だが帰る手段が、あるのか無いのかだけはハッキリさせておきたい。もしかしたら行き来ができる可能性もあるし」  そうなればいいなぁ。そんな話をしていたら、索敵に反応があった。レベルが2になったので索敵は現在半径が50メートルにまで伸びている。 「ラーダ。話は後だ。敵だ。ゴブリンより明らかに強い敵で数は6だ」  こうして、今日の戦闘が始まる。 ※ ※ ※  敵を見た俺は顔をしかめる。それな二足歩行する猪だったからだ。だがそれはいい。問題なのは2本の足の間で揺れている生殖器だ。ブランブランしている。それを見たハルがポツリ。 「揺れてますね。ゴブリンより大きい……かな?」  バカハルの言葉に思わず溜め息。お前は何を言っているんだと思わず脱力してしまう。ラーダが「気を引き締めろよ。なかなかの強敵だぞ」と声を出した。ジャックが前に出る。 「オークですね。魔石以外はゴミなので、さっさと狩って更に奥へいきましょう!」  ジャックの気合は充分のようだ。そんな彼が先陣を切って、斬りかかっていったのだった。
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