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040:差別と喧嘩
食事会をする前に、ハンターギルドへ寄った。
魔石の査定をしている間にラーダは「席を取ってくる」と言って食堂へ走って行ってしまった。ハルはエリスさんを逃さないと言わんばかりに彼女と腕を組んでいる。
魔石の査定が終わり報酬を等分する。ラーダの分はジャックに渡した。その間もハルとエリスさんは女子トークで盛り上がっている。時々笑い声も聞こえる。もう仲良くなったようだ。しっかし何の話をしてるんだろうな?
気にはなるが……
まぁいい。ハルに任せよう。一瞬ハルと目が合う。すると彼女はニッコリと笑った。そしてまたエリスさんと会話を始める。
マジで何の話をしてるんだろ。
※
※
※
宿に併設されている食堂兼酒場に到着。すると一番奥の席をラーダが取っていた。
「おう。遅かったな」
「あぁ。やはり数が多くてな」
「あぁ、なるほどな」
「ラーダの分はジャックに渡したぞ」
「おう」
そうして会話をしている間にも飲み物や食べ物が運ばれてくる。そこにハルが缶チューハイを置いた。
「ハル。お前キャッシュを取得したのか?」
「はい。1ポイントだけですけどね」
ふむ。そういえば今回の狩りで、どれだけレベルが上ったんだろうな。俺はまだ確認していないが、まぁ後でいいだろう。
ハルの隣に座るエリスの席にも缶チューハイが置かれている。
「飲んでみてください」
「変わった入れ物ですね?」
「ここをこうして開けるです」
ハルはエリスに梅チューハイを飲ませるようだ。他にも赤ワインを取り出した。色々飲ませるようだ。何を企んでいるのやら。一応ハルに忠告。
「無理に飲ませるなよ?」
「大丈夫ですよ。さっき話してたらお酒は大丈夫だけど、エールとかは、あまり美味しく感じないって言っていたから。ならばこれならどうよって思って」
どうやらすでに趣向品の好みはリサーチ済みらしい。他にもポテチなどのスナック菓子類も……ってなるほどな。
ハルの企みを理解した俺は、この件はハルに任せようと思った。
それから始まる食事会。俺は基本的にラーダと飲む。今後のことを中心に、今回の反省点も洗い出していく。
「カセもハルも剣ぐらいは所持しておいたほうがいいな」
ラーダの言葉に俺は頷く。
「そうだな。銃は強力だが万能じゃない。それを改めて思い知ったよ」
予備武器は必要だと言う話から、今後の話へ。
「やはりもう1人ぐらいは仲間がほしいな」
ラーダがエリスを見る。何を考えているのかは分かる。強力な仲間だ。20年以上をハンターをやって生き残っているエルフが弱いわけがない。
「そこはハルに任せよう」
「ずいぶんと仲良くなったみたいだな」
「あぁ。アイツの取り柄の一つだ」
「なるほど」
そんな、やり取りをしていたところで突然、男性が大声で喚いた。
「おいおい。ここは何時から奴隷と同席するような下卑た宿になったんだ?」
みんなが視線を向けると、そこには不愉快そうに、こっちを指さしている男が居た。どうやらエリスさんのことを言っているようだ。さっきまで笑っていたエリスさんが俯き小さく「すみません」と謝った。それを聞いて俺の中で何かが切れた。不愉快にすぎる。そう思って立ち上がろうとしたところに、ハルの声が割って入った。
「あーぁ。やだやだ。もてない男の僻みほど聞き苦しいことって無いよね」
それが誰に対して言っているのかを理解した男が怒鳴った。
「何だと、ガキが! 誰が僻んでるってんだ!」
「おっさんだよ」
「黙れや! ケツから殺って回しちまうぞクソガキ!」
「オッサンの粗チンじゃ私はやれませーん」
ハルが汚い言葉を使ってる!
それだけ怒っているってことだが、いいぞ、もっとやれ。
じゃなかった。ここは俺も入らねば男が廃るってなもんだ。そう思って再び声を出そうとしたらジャックが切れた。
「ハルさんに何て言葉を使うんだ! 取り消せ!」
「うるせー。ガキはすっ込んでろ! それに汚い言葉を使ってんのはそっちだろ!」
「いいえ、引っ込みません! そっちが詫びるまで絶対に許さない!」
ヒートアップする言葉の応酬。立ち尽くしたままの俺。完全にタイミングを逃した。う~ん。どうしたものか。そう思ってラーダを見ると笑っている。
「どうしたんだ?」
「いや。うん。悪くないなと思ったんだ」
「どこがだ?」
「ジャックもハルも、そしてお前さんも。仲間のために怒れる。良い事じゃねぇか」
そう言ってラーダが立ち上がった。獰猛に笑う。そして大声を張り上げた。
「うちの若様に、キタねぇ言葉使ってんじゃねぇ!」
そう言ったかと思うと、男に掴みかかっていった。そこからは大乱闘だ。当然のように俺も参加した。喧嘩なんてしたことはないが、それでもここ数日で荒事にも結構なれた。命を切った張ったやってんだ。今さら殴り合いで怯える心は持っていない。
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