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041:出禁
俺たちは今、開拓村の外にいる。
「はっは、出禁になっちまったぜ」
村に一つしか無い宿の一階で大乱闘をした結果、追い出された。宿は愚か村からもだ。エリスさんが申し訳無さそうに謝罪した。
「すみません。私のせいで……」
するとラーダが先程とは打って変わって真剣な表情で言った。
「よしてくれ。別にあんたのために怒ったわけじゃねぇ」
「え」
ハルが同調する。
「そうそう。それにここは、ありがとうございますって言うところじゃないかな?」
不思議そうな顔のエリサさん。だがそれ以上、ラーダもハルも説明をする気はないようだ。口を閉ざしてしまった。しょうが無いので俺が説明をする。
「他の誰でもない。俺たちは俺たちのために怒ったんだ。命の恩人を侮辱されて怒らないなんて恥知らずも良いところだ。それに……一時でも一緒に戦った仲間でもある。もうここまでくると怒らないという選択肢はないぐらいだ」
するとエリスさんは小さく呟いた。
「仲間……」
俺は言葉を続ける。
「仲間が助け合うのは普通のことだ。それこそハンターの場合は命を預け合う仲だからな。それなのに助けた仲間から、私のせいで御免なさいって謝られたら困っちまうだろ?」
それでも迷っているエリスさんにハルが言った。
「ありがとうございますは?」
それは子供に言い聞かせるようだ。
「あ、ありがとう、ござい、ます」
顔が真っ赤で今にも泣き出しそうだ。俺はもう一度誘ってみる。
「一緒に行かないか?」
「でも、私が居たら、また……」
「そしたら、また喧嘩するさ」
「いずれ行く所が無くなってしまいますよ?」
「あっはっは。俺はエリスさんとだったら何処でも暮らせるけど?」
「え、いえ。それは……」
微妙な空気になってしまった。うん失敗失敗。
でも、そこにハルが登場。
「加瀬さんが口説いてるぅ」
ムカつく口調だな。
「好意は伝えてこそだ」
「この状況でですか?」
「うん。俺も失敗したと思ってる」
「ですよね。良かったぁ。これで空気が読めない人だったらどうしようかと思いました」
「お前は俺を何だと思ってるんだ?」
「いやぁ。恋する中年男性が暴走しているのかと」
「うるせぇよ」
俺たちのやり取りを見ていたエリスさんが笑った。それを見て俺も安堵する。
ふぅ。助かったぁ。ハルのフォローがありがたい。
俺はハルの頭を軽く小突きながら小さな声で「サンキューな」と伝えたらハルは大きく頷き胸を張ってから言い放った。
「私。できる女ですから!」
そうだな。お前すげーよ。色々と。
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