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046:レッドアイ
森を進む。ハルの追跡の後を追いながら。白い雪と黒い木々のコントラストは森という空間を寒々しく感じさせる。風は無風。この森は針葉樹林がメインのようだ。
西の開拓地の森とは植生が違う。かなりの高低差があり小高い場所があったり、低地があったりと見通しが悪い。
現在の俺たちは坂道を登っている。段々と獣の気配が強くなってくる。そしてとうとう索敵に反応が引っかかった。坂道の反対側。降った先にいるようだ。俺はハルを小さな声で呼ぶ。
「ハル」
「はい」
「この先に居る。慎重に進め」
「はい」
ハルがソロリソロリと移動を始める。坂を登り終え、低地を見下ろす形になる。レッドアイを確認。メスだ。少し大きいが確かに赤い目をしている。距離的には100メートルを切っているか? ハルがレーザーレンジファインダーで距離を測定。そしてさらに慎重に進み始めた。
そして立ち止まる。これ以上は近づけないと判断したのだろう。レッドアイの耳がくるくると、せわしなく動いているのが見える。目測では70メートル下。今のハルの銃と腕なら殺れる距離のはず。問題は敵の耐久値。ハルが銃を構えた。
ハルの気配を感じたのだろうか。レッドアイが辺りをキョロキョロと見回している。そしてハルを見つけたようだ。目が合う。こちらをじっと見ている。まだ逃げない。
ちょうど今。ハルとレッドアイは正面を向き合う形になっている。緊張が高まる。
そして……
レッドアイが振り返って逃げようとした瞬間。タァーンと音が鳴った。赤い血飛沫が白い雪を染める。それでもレッドアイは逃げる。半矢だったようだ。
俺は指示を出す。
「追跡するぞ」
「はい」
血の痕跡を辿り、森を奥へと進む。出血量を見るに急所にはあたっているはずだが……
そう思いながらも追跡を続ける。思っている以上にタフなようだ。銃を撃った現場から、およそ800メートルほど進んだ先で倒れているレッドアイを見つけた。まだ生きているようだ。
「ハル。とどめを刺してやれ」
「はい」
ハルがナイフを取り、鹿の急所である肩甲骨の隙間にナイフを差し込んでいく。一瞬、レッドアイの身体がビクンとなって、その命の鼓動を停止させた。
「解体しよう。肉は……食えるのか?」
鹿とは言え魔物だが、どうなんだろう?
エリサが頷く。
「食べられますね。なかなか美味しいと評判ですよ」
「分かった」
そこからは解体だ。まずは血抜きから始める。それが終わったら毛皮を剥いでいく。
「手慣れているな」
そこまでの作業を見ていたラーダがハルの手際を褒めた。
「鹿はそれなりに狩ってますから」
俺とジャックとラーダは、あくまで手伝いに徹する。毛皮を剥いだら肉を解体していく。周囲の警戒をしていたエリスが何かに反応。
そして俺たちに告げた。
「この反応は熊ですね。どうします?」
熊か。俺はハルを見る。目が輝いている。狩ってみたいと言っていたもんな。
「ハルに任せる」
「はい!」
こうしてハルの初めての熊狩が行われることとなったのだった。
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