047:獰猛な笑顔

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047:獰猛な笑顔

「エリスさん。熊は?」  俺が尋ねると彼女は少しの間、目を閉じた。どうやら気配というより音を聞き分けているようだ。 「離れました。どうやら北に向かって移動しているようです。追いますか?」  俺がハルを見ると彼女は頷いた。 「追います!」  ハルが先頭で、歩き始めて少し。さっそく熊の痕跡である足跡を見つけた。しかし…… 「これはデカいな」  今まで俺が経験した中でも一番大きい。 「ハル。復習だ。日本に生息する最大の陸生哺乳類のヒグマだが、その体長はどのくらいだ?」 「えっとぉ、確か140センチから180センチの範囲です」 「そうだ。ならこの熊の足跡から予想できる体長は?」 「……2メートル、を越えるかと」 「そうだ。これはアメリカ大陸に生息するグリズリーやホッキョクグマよりもデカい」  ハルが真剣な表情をしている。 「どうする? 諦めるか?」 「……狩りたいです」 「でもハルの銃では威力不足の可能性が高い。通常の銃より威力は上がっているが、それでもだ」 「加瀬さんの銃を借りる訳には?」 「使ったことのないライフル銃をか?」  ハルが俯く。 「とりあえず、今あるポイントを威力に振ってくれ」 「はい」  ハルがステータスを操作しようとしたところで、そこにエリスが提案してきた。 「私の魔法を付与してみるというのはどうですか?」  俺が首を傾げる。 「魔法を付与?」 「はい。私が以前にオーガ戦で見せた大技を覚えていますか?」 「あぁ。あの力を溜めて弓を射るような感じで放った?」 「そうです。あれと似たことをします」  エリスはそう言って、ハルの持つ弾丸に魔法を付与してみせた。 「これに魔法を付与しました。付与した魔法の属性は火と風と土です。試し撃ちをしてみてください」  そう言われてハルは一本の大木に銃を向けて発砲した。  すると反動が大きすぎて彼女の腕力では抑えきれなかったのだろう。銃口が上に跳ね上がった。ハル自身も後方によろめき、銃を構えていた右肩が不自然に下がった。 「ハル!」  駆け寄って腕を見ると、どうやら脱臼しているようだ。俺はハルの外れた関節を、その場でハメて彼女自身に光魔法を唱えさせる。  銃の威力は段違いに上がったが、同時に扱い来れなくなった。 「これじゃあ駄目だ」  俺の言葉だ。だがハルの方は、まだやる気だ。  実際に銃から発射された弾は、狙いを定めた大木の右上を大きく抉っているのが見える。ハルが乾いた笑い声を発した。 「はは……」  さて、どうしたものか。俺が考え込んでいるとハルがステータスを開いた。 「もう一度、試していいですか? 今度は銃の反動軽減にポイントを振ってから」  ハルの目が爛々と輝いている。闘志に燃え、やる気で満ちていると言っていい。俺は大きく溜め息を吐いて言った。 「好きにやってみろ」  すると、ハルが珍しく獰猛な笑顔を見せたのだった。
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