049:野営

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049:野営

 熊が崩れ落ち地面に横たわった。終わってみれば完勝だ。ハルを見ると肩を光魔法で治癒をしていた。 「大丈夫か?」 「はい! えへへ」  殺ってやりましたって顔だな。 「さっそくで悪いが解体をしよう。それから少し移動して野営の準備もだ。手分けしてやろう」  指示を出して、それぞれが行動を開始する。 「カセ。あの簡単に広がるテントを出してくれ」 「あぁ。他にも色々と出すから夕食の準備も頼む」 「おう。任せてくれ。レトルト食品だっけ? 楽で美味くていいよな」  ラーダのセリフに思わず苦笑い。そこにエリスも入ってきた。 「ラーダさん。ウオッカを一杯だけ良いですか?」 「おう。へへ。カセから貰ったものだが、これ。かなりいいぜ」  そう言ってラーダが懐から出したのはスキットルだ。スキットルって言うのはアルコール度数の高い蒸留酒を入れて携帯する容器のことだ。蒸留酒用小型水筒といえば分かるか?  見たこと無いかな? 映画とかで雪山で体を温める時に酒を飲むシーンに出てくるんだが。  まぁいい。  ちなみにピューター製のをプレゼントした。ピューターとはスズを多く含む合金だ。形が変わりやすいという性質があるが、味がまろやかになるという性質があるためにお酒好きに好まれる。そのスキットルからエリスが一口だけ飲んだ。 「ありがとうございます」 「おう!」  そう言ってラーダはまたスキットルを胸に仕舞う。野営の準備用に荷物を置いたら俺はハルと解体だ。見張りはエリスでジャックとラーダが野営の準備。火を熾したりテントを立てたり。  それらが終わる頃には、すっかり日が落ちて夜になっていた。 「ふぅ。寒い寒い」  解体を終えた俺とハルは、火に当たりながらインスタントコーヒーを飲む。ちなみにハルはミルクと砂糖を入れたカフェオレだ。俺はブラック。  するとラーダが嫌そうな顔で言った。 「よくそんな不味いものが飲めるな。ハルの方は、まぁ分からんでもないが」 「ん? そうか? 慣れれば美味いが」 「俺はこっちの方がいいな」  そう言って、やはり酒を飲む。ウオッカにしろ他の酒にしろ結構高いんだが?  まぁいっか。  そんな会話を交わしながら全員で食事。ちなみにレトルトカレーにした。 「この白いの。米って言ったか? 不思議な触感だし、これ自体は美味くないがカレーとの相性は最高だな!」  ラーダが美味そうに食ってる。エリスもジャックもだ。気に入ってもらえて良かった。  食事を終えたら、見張りを残して全員で寝る。  今回は俺とラーダが組んでの見張りだ。 「しっかし、カセには驚かされるな」 「そうか?」 「あぁ。まさかエルフに恋をするとは!」 「そっちか? 能力の方ではなくて?」 「あっはっは。確かにステータスには驚かされたがな」  俺は以前より気になっていたことを尋ねる。 「ラーダは……いやジャックもか。あまりエルフに差別意識がないみたいだな」 「んあ? あ~。まぁ教育の賜物とだけ言っておこう」 「ふぅん?」 「そりゃあな。エリス個人が犯罪奴隷でしたってなったら話は別だ。犯罪の内容によっては警戒もしたが、実際には彼女に何の落ち度もない。生まれがエルフでしたってだけのことだ。200年以上前にいたっては、人族とエルフは普通に接していたんだぜ?」 「なるほどな。でも良かったよ。2人がそういう感じで」 「まぁな……あっ! そうだ。ようカセ?」 「何だ?」 「酒のつまみを出してくんね?」 「あんまり飲むなよ?」 「わーってるよ。キャッシュってやつは貴重だからな」 「ならいいんだが」  パチッパチッと薪が爆ぜ崩れ落ちる音に、ポリポリと柿の種のお菓子を食うラーダ。  おかしいな。ここ異世界のはずなのに凄く日本のキャンプ場にいる空気が出てる……  その後、見張りを交代。  俺とラーダはテントに入った。しばらく外の三人の声が聞こえてきた。 「それで? エリスさん。カセさんとはどうですか?」 「え……えぇ、まぁその。優しいですね」 「それだけですか?」 「いえ。えっとぉ……」 「おやおやぁ。何だかピンク色の波動が漂っていますねぇ!」 「なんですか? 波動って。ピンク色?」 「あう。渾身のギャグが通じない!」  今すぐ俺が出ていって、お前はどこのオッサンだ、って突っ込みたいが、ここは大人しく聞いていよう。エリスさんが何て答えるか気になる!  ハルがピンク色の波動について説明している間に段々とまぶたが重くなってきた。  結局、俺は、その後のエリスさんの言葉を聞くことが出来ずに、疲労が出て眠ってしまったのだった。む、無念……
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