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053:緊急依頼
2日ほど様子を見て、その後も森に行っては様子がおかしいのを確認して戻るという事を繰り返した。
森の奥から獣が外周部へと集まっている。さすがに森から出てくるのは少数のようだが。
そして、雪の降る月である12月ももうすぐ終わって新年を迎えようかという頃。
情報を求めてハンターギルドに顔を出した時に、上級と呼ばれるパーティが一組。森の異変の調査に出ていることを聞かされた。
ギルド職員は、これで安心ですと言って笑顔をみせていた。
しかし彼らは、2日経ち、3日経ち。4日が経っても帰ってこなかった。他の中堅どころのハンターたちが、ギルド職員に詰め寄って怒っている姿が、たびたび見かけられるようになった。
「中堅どころに取っては死活問題だからなぁ」
正直、俺たちも懐の事情があまりよろしくない。ギルドには早く解決してもらわないと。
そう思っていた所に新情報が飛び込んできた。上級パーティを二組、用意したのだそうだ。わざわざ開拓村に駐留していたのを呼び戻してとのこと。
これで解決できるだろうと、ギルド職員も万難を排しての編成だったのだろうが結果。彼らも3日経っても帰っては来なかった。
ラーダが「一体どうなってやがるんだ?」と首を傾げている。ラーダやエリスさんクラス。下手をすればそれ以上の腕を持つ人間がパーティを組んでの調査。それが誰ひとり帰ってこないという有り様。
普段。北の森へ行っていた中堅どころの怒りが爆発仕掛けていた。
そこにギルドから緊急依頼が。
中堅どころ。つまり現在、領都に在籍する4級と5級で改めて調査に向かってくれと言われたのだ。これには皆が驚いた。
「おい! ふざけんな。2級や3級パーティが全滅して帰って来れねぇような死地に向かえってのかよ! 死ねって言ってるようなもんじゃねぇか!」
怒号が飛び交う。それに対してギルド職員からも説明がなされる。
「森の調査ではなく、あくまで帰ってこない上級パーティの捜索をしてくれという依頼でして──」
「一緒じゃねぇか!」
「報酬は通常の3倍を──」
そんなやり取りが見える中、俺はラーダに聞いた。
「どうする?」
するとラーダ。
「どうするたってなぁ」
正直、生活資金が底をつきかけている。このままじゃ路頭に迷うことになるのだ。
「俺たちは俺たちで森に行くか?」
俺がため息を吐きながらも言えばラーダが首を左右に振った。
「リスクが高すぎる……が、しかしなぁ」
皆で悩んでいると、ギルド職員がこちらにやってきた。
「ラーダ様とエリス様に緊急依頼です」
そう言って、依頼表を渡される。ラーダが呆れたように言う。
「おいおい。うちには新人が二人もいるんだぞ?」
俺とハルを差してラーダが言う。しかしギルド職員も、もう後がないのだろう。
「確かにそうですが、2級のエリス様もいらっしゃいますし……」
「たってなぁ。カセもハルもまだ6級だ。ジャックが5級。俺が3級。さすがにウチらのパーティには無理があるぞ」
しかしギルド職員も引けないのだろう。
「これは緊急依頼ですので……ギルド規定に則っています」
「カセとハルとジャックは?」
「参加させる、させないの判断はおまかせします」
ラーダは深い溜め息を吐いた。
「だってよ。どうする?」
俺はハルを見る。すると彼女は笑顔で言った。
「置いていくなんて言わないでくださいね?」
こうして俺たちは北の森へ行くことになったのだった。
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