055:残されていた痕跡

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055:残されていた痕跡

 なるべく戦闘をせずに進むったってなぁ、言うは易く行うは難し!  なぜなら現在。絶賛、戦闘中ですよ。場所は窪地のような場所の底の方でだ。  奥から流れてきて、外縁部に集まったであろうゴブリンやホブゴブリンに、とあるパーティが見つかり、狩ったところ、わらわらと集まってきた感じだ。集まってきているのは、好奇心が強く攻撃性の強い種ばかり。  俺とハルもちょこちょこと撃ってはいるが、他のパーティの皆さんたちが嬉々として狩ってらっしゃるので、まぁ楽をさせてもらっている。 「溜まってたんですねぇ……」  ハルもドン引きだ。ザ・殺戮! ここが狩り場だ!  ってタイトルをつけようかな。しばらく暇をしていたら、そこに他のパーティの後衛。つまり弓使いが声をかけてきた。 「よぉ。前衛の連中、張り切ってんな」 「ですねぇ」 「後衛は矢数に限りがあるから温存なんだが……」 「そうなんですよぉ」 「あんたら変わった武器をもているな」 「えぇ。まぁ」  なんとも緊張感がないやり取り。 「気が抜けてんな、おい」 「はは。まぁ元々気乗りのしない依頼だったんで」 「だよなぁ。とりあえず、あっちに行ってみねぇか」  そう言って彼が示したのは窪地の縁側。そこの一箇所に後衛の人たちが集まっていた。 「どうしたんでしょうね?」  俺が尋ねると、彼は答えた。 「あぁ。なにか痕跡を見つけたのかもな」 「なら、行ってみますか」 「おう」  俺は隣りにいたハルを見て誘う。 「行こう」 「はい!」  こうして前衛の人たちの戦闘そっちのけで、集まっている人たちの元へ。  すると、そこには倒れた大木があった。その倒れた大木には1本の大きな傷がある。それを見て周りに居た人たちが口々に言うのは「ヤバいぞ。これって多分ホーンベアの付けた傷だ」だ。  俺は、誘ってくれた弓使いの彼に尋ねる。 「ホーンベアって?」 「ん? 知らないのか?」 「スマン。角がある熊であることぐらいしか推測できない」 「そうか。まぁこの辺の人間じゃないなら知らなくてもしょうがないか」  そう言って彼は説明してくれた。 「ホーンベアってのは額に一本の角がある熊の姿をしている魔物だ。危険度ランクはB級。通常の熊と違い体躯は3メートルを越える」 「さん……!」  俺が絶句。ハルも叫んだ。 「ちょ、デカすぎ!」  しかも、彼が言うには物理攻撃がほとんど効かないらしい。 「そんな無茶な。そんなのどうやって倒すんですか?」 「物理攻撃を防ぐ魔法的な物を身に纏っているらしい。なので魔力を消費させてからとかなんとか。でもなぁそれが簡単じゃないという」  当然だろう。体長3メートルの熊が襲いかかってくるのだ。しかも物理攻撃の効かない熊。俺はエリスさんを見る。 「魔法は効くんですか?」  すると彼女は答えた。 「私も戦ったことがないので……すみません」  すると先ほど説明してくれた弓使いさんが答えてくれた。 「土や氷系は効かないそうだ。風も分厚い脂肪と筋肉に阻まれて同様らしい。可能性があるのが火だが相当な火力がないとダメらしい」  魔法も万能じゃないのか……  あれ?  でもエリスさんの必殺技なら?  そう思ってエリスさんを見る。すると彼女は言った。 「やれるだけ、やってみましょう」と。  頼もしきは、頼れる仲間だ。  そう思ってハルを見ると倒れている大木ではなく、残された方の根っこの部分を見ていた。 「どうした?」 「いえ。あ~ってか、これって焦げてますよね?」  言われて俺は根っこ先の部分を見てみた。黒く煤けている。 「確かに。何でだろうな」  ホーンベアが焼いた?  でもホーンべアが火を使うような話は出てこなかった。  じゃあ一体この焦げ跡は……  俺とハルが顔を見合わせて首を傾げあったところで、そいつが現れた。 「ホーンベア!」  後衛の誰かが叫んだ。余裕のある人達の幾人かが視線をそちらにむけると、怒り狂った大きな熊がいた。前衛のハンターの多くが未だゴブリンやホブゴブリンたちと戦闘中でのことだ。
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