異世界ハンターライフ

056：逃走

　一瞬。確かに場が凍りついた。そしてその後に起こったのは大恐慌状態。ゴブリンやホブゴブリンの一部が逃げ出し、一部はホーンベアに突撃していった。

　突撃したゴブリンやホブゴブリンはホーンベアの体に纏わりつき一部は、その後方へと逃げ出す。

　ハンターの方は茫然としている。

　そこに誰かが叫んだ。

「逃げろ！　撤退だ！　魔法が使えるものは援護を頼む！」

　ホーンベアの討伐は依頼に入っていない。なので闘うという選択肢はない。だが……

　俺は銃を構えて発砲した。物理攻撃が効かないとは聞いたが、それは人が振るう剣や弓矢が効かないという意味ではないのか？

　果たして文明が生み出した武器はどうなのか？

　それを確かめてみたかったのだ。

　距離は100メートルを切っている。それでも緊張のためか1発目を外した。2発、3発と発砲。しかし命中しているはずなのに、聞いている様子はない。

「銃も駄目か……」

　それでも鬱陶しさは感じたのだろう。こっちを見て吼えた。その間にも窪地の底に居たハンターたちは我先にとこちら側へ駆け上がっているのが見える。

　ホーンベアが逃げ始めたハンターに気がついたのだろう。視線を俺から外し、坂道をすごいスピードで降り始めた。そして一番身近に居たハンターをその爪に引っ掛け、弾き飛ばしたのだ。人が1人。まさに吹っ飛ぶと言う表現が正しいぐらいに飛んでいる。それも血と肉を撒き散らしながら。

　そこに呪文の詠唱をしていたエリスが、その魔法を解き放った。

「アイスバーン！」

　するとホーンベアの周囲の地面が凍りついた。氷系は効かないんじゃ？

　そう思ったがホーンベアが一歩踏み出した際にコケた。それに対して怒ったのか、体を起こしたホーンベアが吠える。そして右前足を地面に叩きつけた。すると辺り一帯の氷が砕け散ったのだった。

　まさに力技。

　しかしその間にも、窪地に居たハンターたちが急斜面を駆け上がっている。エリスは逃げる時間を稼いでいるのだと理解。

　そしてエリスが叫んだ。

「とっておきです！」

　そうして唱えた魔法は雷。

「サンダーアロー」

　それはバリバリと音を鳴らしながらホーンベアを貫いた。そしてホーンベアが一瞬だけだが痙攣。さらに時間を稼いだ。今度は「ファイアーボール」と叫び、炎の塊がホーンベアの頭に直撃して、燃えている。

　俺はエリスの魔法に見惚れてしまった。いや。戦う彼女の姿にだろうか。そんな俺の腕をつかんだエリスが「今のうちです。逃げましょう」と叫んだ。他の皆は既に遠く後方に下がっている。最後が俺たちだ。俺は彼女と逃げながら聞いてみた。

「このまま倒せないのか？」
「無理です。たいして効いていません。完全に攻撃力不足です！」

　あれだけの魔法でも無理なのか。ホーンベアが、とんでもない化け物なのは理解した。

　それから森を出るべく駆けた。俺の前をハルが隣にはジャックとラーダも居る。

　しかし森を走り抜けた先。最後尾を務めた俺たちが森を抜けた先で見たもの。それは一匹の見たことのない四足の獣がハンターを蹂躙するさまだった。

「何だあれは！」

　ラーダが叫ぶ。彼も見たことがないようだ。

　そしてそいつがこちらを振り向いた。

　人間のような猿のような顔にトラのような縞の入った四本の足。胴体は茶色の毛で覆われ尾には蛇のような鱗が付いている。それが体の周囲に暗雲を纏わり付かせ、それが時折、パチパチと放電している。

　一瞬だが、確かに目が合った。そしてそいつの口元がニヤリと弧を描く。さながら人間がほくそ笑むかのように。

　そして、そいつは吼えた。

「ヒョー」という甲高く、そして気味の悪い声で。