057:人面獣との戦闘

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057:人面獣との戦闘

 立ち止まり、睨み合う俺たちの後ろからドスンドスンと走る獣の足音。振り返るとそこには先程のホーンベアがいた。  そして俺たちを無視して、気味悪い声で鳴く人面獣に向かって吼えた。 「ごぉああああああ!」  まさに獣の威嚇の声。それをニタニタと笑いながら見ている黒い雲をまとう獣。  2頭の獣に挟まれてしまった。しかも内一頭は物理攻撃の効かない魔物。もう一頭は正体不明の魔物。  そしてホーンベアが正体不明の魔物に向かって突進。そして眼の前で立ち上がり、その右腕で薙ぎ払おうとした瞬間。閃光が走り、続いてバヅン! という物凄い音が辺りに轟いた。そして立ち上がった状態のホーンベアが前のめりに倒れたのだった。辺りには肉の焦げた匂いが立ち込め始めた。  それをニタニタと笑いながら眺めている獣が一頭。  ラーダが呟いた。 「マジかよ……」  俺も皆も唖然としている。ハンターたちを蹴散らしたホーンベアを、あっさりと倒してしまったのだ。  そしてその獣が俺たちの方へ、ゆったりと歩み始めた。一歩。また一歩。まるで俺たちの心を、なぶって楽しんでいるかのようだ。だが、そこは歴戦の戦士。ラーダが吼えた。自身を鼓舞するかのように。 「うぉおおおおおお!」  そして、俺たちに言った。 「全員逃げろ! ここは俺が時間を稼ぐ!」  バスタードソードを構えた。そして暗雲をまとう獣に突進。その剣を振り下ろした直後に辺りにバチッ! と音が鳴った。先程よりは小さな音だ。だが直後。ラーダの身体がビクンと痙攣。直後に倒れてしまった。  それを見てジャックが、やはり剣を構える。 「ハルさん。逃げてください!」  ジャックも戦いに挑もうとしたが、そこはハルが止める。 「私だって戦える!」  そして散弾銃を構えて発砲しようとしたところで獣が吼えた。 「ヒョー!!!!」  すると獣を中心にして、辺りに電気が広がり放電した。とっさにジャックがハルをかばう。  剣を構えていたからか、避雷針代わりになってしまったのか。それとも魔法的な電気のせいで通常とは違う動きをしたのか。それは分からないが、しかしその放電した電気のほとんどがジャックに命中。その体を電気が蹂躙した。崩れ落ちるジャック。ハルが叫ぶ。 「ジャック!」  そして彼女はジャックに駆けより、心音を確認した。 「死んで……」  俺はハルに叫ぶ。 「ハル! 心肺蘇生だ! 息を吹き返したら光魔法!」  そして。 「エリス。君だけでも逃げろ! 逃げて情報を持ち帰ってくれ!」  俺はライフル銃を構え、そして引き金を引いた。しかし…… 「弾切れ!」  さっき、撃ったのが最後だったことを思い出す。そのあとリロードする暇がなかった結果だ。 「くっそ!」  痛恨のミス。それを見てエリス。 「カセさんこそ逃げてください!」  そうは言われても、ハルもエリスも置いて逃げる訳にはいかない。俺はリロードのために銃に弾を込め始める。  そんな俺に構うことなく、エリスは弓を引くような仕草をした。 「大技を放ちます!」  悠然とこっちに歩み寄ってきていた獣が、また笑う。  エリスの必殺技を受け止める気のようだ。 「上等です! 受けなさい!」  そして放たれる魔力の矢。彼女が言うには純粋な魔力の塊を放つ技なのだという。一日に一発が限度の大技。  しかし、その技が獣に当たる直前に霧散した。 「なっ!」  一瞬、唖然としたエリスだったが、すぐに立ち直り呪文の詠唱。 「アイスランス!」  しかし氷の槍も獣に触れる直前に粉々に砕け散った。 「なら、これならどうです!」 「アースランス!」  すると、そこで初めて獣の余裕の表情が崩れ、飛び上がったのだ。 「避けた!」  やはり電気。たとえ魔法的に発生していても相性があるのかもしれない。エリスがさらに呪文の詠唱。同時に獣が地面に着地。そのタイミングで魔法が発動された。 「アースクエイク!」  地面がひび割れ、その間に獣の下半身が飲み込まれ、身動きができなくなった。そこでリロードを終えた俺はライフル銃を構え、そして発砲したのだった。
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