061:新年の告白

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061:新年の告白

 新年を迎えた。向こうと同様に祭りがあった。ハルとジャックはデートでいない。  ラーダもどこかに出かけたようだ。そして俺はと言うと…… 「これ美味しいですね」  エリスさんとデートだったりする。うん。楽しいね。ちなみに今、エリスさんが食べたのは、屋台の謎肉だ。  ちなみに服装こそ、いつも通りだが、髪だけはアップにして、ちょっとだけオシャレしていて。それが何だか嬉しい。少しは意識してもらえているみたいだ。  それでも一定の距離は感じる。これ以上は踏み込ませないと言う境界線。それはたぶん亡くなったという幼馴染関係かなぁとは思ってる。それともラーダが指摘した寿命の差の問題だろうか?  その辺を明確にしたい。下手をすればパーティの関係に亀裂が入るが、お互いにその辺は大人だと思っている。  彼女の内面に踏む込む覚悟はできたが、さて。どう切り出そう。  そんなことを考えながら、デートであっちへフラフラこっちへフラフラしていたら、町の中央区の大きな公園。そこの1件の出店で子供が手作りのペンダントを売っていた。木彫りのペンダントだ。  彼女が足を止め、熱心にそれを見つめている。欲しいのだろうか?  決して出来の良い物ではない。だがそのペンダントを見つめる彼女の表情が真剣なものなので俺は、それを1個購入することにした。そしてそれを彼女にプレゼント。 「いずれは、もっと良い物を贈らせてくれ」  何の気もなしにそう告げた。  だが、それが彼女の感情をぐちゃぐちゃにしてしまったようだ。  突然ポロポロと泣き出した。  俺は道の中央で泣き出したエリスさんの肩を抱き、近くのベンチへ移動した。  エリスさんがポツポツと語りだした。 「昔、リッツが私に同じことを言いました」  リッツというのは幼馴染のことだろう。俺は頷く。 「そうか」 「彼の手作りだったんですよ。私たちは、まだ初心者のハンターでお金がなくて、だから……」  またポロポロと涙が頬を伝う。 「その年でした。彼が亡くなったのは」 「何があったのか聞いても?」 「はい。クリムゾンアントの群れと遭遇したんです」 「アント……蟻?」 「はい。一匹がオオカミほどの大きさの、紅色をした蟻です」 「それはデカいな」 「はい。あっという間でした。彼の最後の言葉が逃げろでした。直後に群れに飲み込まれて……」  最後まで彼女をかばったのか。  エリスさんが懐から木彫りのペンダントを出す。それはだいぶ傷んでいた。ずっと持ち歩いていれば当然だろう。  しばらくお互いに沈黙する。俺は思い切って気持ちを伝えることにした。 「俺はエリスさんが好きだ。付き合ってもらえないかな?」 「カセさんの気持ちは知っていました。ハルちゃんからも時々、焚きつけられましたし」  そういえばそんな感じだったな。 「でも、私……もう嫌なんです。置いていかれるのは」 「つまり、置いていかれなければ付き合っても良い?」  ちょっと卑怯だが、先に言質をとっておくことに。 「そうですね。カセさんは優しいですし」  存外に、無理でしょ?  と言っているかのようだ。だが無理じゃないんだ。俺にはステータスがある。なので彼女に俺が愉快犯から貰った能力があることを告げた。 「年齢を若返らせる……ポイントを使って?」 「えぇ。だから、俺は貴女と共に同じ時間を歩めます。誓います。俺が貴女を看取ることを。だから……付き合ってください。結婚を前提に」  エリスさんが沈黙する。まだ迷っているようだ。 「20年。ずっと独りでした。寂しかったです。でも、リッツに申し訳なくて……」 「そっか。なら、もう……いいんじゃないかな?」 「もし死者の国があったら、リッツが何て言うかを考えると怖いです」 「リッツさんって嫉妬深かったの?」 「あ~。いえ。のんびりしてました」 「なら、こう言えば良い。私、幸せに生きましたよって。なにか不満でも? ってな」  するとエリスさんがくすっと笑った。 「私は幸せになるんでしょうか?」 「そうするために全力を尽くすことを誓おうかな」 「何に誓います?」 「君に。君に誓う」 「…………」  彼女は沈黙の後、静かに「よろしくお願いします」と頷いたのだった。
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