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065
17日と言う期間で合計3人の商人さんの護衛をした。
うん。この17日間。本当に何もなかったんだ。盗賊が出るかもとか思って、もし出たら殺せるのか。本当に引き金が引けるのか。そんな事を真剣に悩み、考え抜いていたけどな。
だが何もなかった。ラーダが聞いてみたら、そういう行為。つまり人を殺すと言う覚悟を考える切っ掛けになればいいとのことだった。
もしものことを考えて心構えだけはしておけよ。という。
そもそも盗賊というのは餓えて苦しむ農民がなるものがほとんどなのだそうだ。
そして春という季節は畑に作物を育てる大事な季節。そんな時期に農民が畑を放り出して盗賊をしているようだと、その国は色んな意味で深刻な状態なのだという。幸いなことに、この国は今。大変に安定している時期だという。
「まぁ豊作の年でも盗賊になるやつが居ないわけではないんだが、いる可能性は限りなく低いだろうとは思ってた」というのがラーダの言だ。
どんな世界にも怠け者はいる。だがここは畑を放り出した人間でも一攫千金を夢見ることが出来るダンジョンやラビリンスという異界がある世界だ。
つまりそういう、腕に覚えのある人間が犯罪を侵さなくても稼げる受け皿があるのだ。
なるほど。
ラーダは語る。
「それでも盗賊をやるやつってのは、もう人の血に飢えた外道者か何かだ。人から奪うという行為に快感を覚えた、な。そこまで落ちればそれはもう魔物と変わらん。殺してしまった方が誰のためにもなるんだよ」
とのことだ。
さて、人を殺す覚悟やらが出来たのかどうかは分からんが、それでも色々考える切っ掛けにはなった。ラーダ様々だ。
「カセもハルも真面目で善良だからな」
ラーダに言わせると、俺もハルもお人好しということになってしまうようだ。自覚は……まぁある。たぶん一般的な日本人は皆が皆。その枠組みにカテゴライズされる気がするが、な。
※
※
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最後の商人を街に届けて、その街で一泊した後は、そのまま街道をひた走る。車でな。
「ひゃっはー!」
ランドクルーザー様のお通りだー!
誰はばかること無く、道を爆走していたら前方に何故か大きな岩が見えた。街道を通せんぼするかのような巨大な岩。当然、岩の前には人集りができている。
「何だこりゃ?」
俺は車を止め確認のために下りた。ラーダも車を降りて確認する。ハルがランドクルーザーを仕舞った。まぁ人目につくからな。これ以上、混乱の種を蒔くこともあるまい。
「何でこんな所に?」
「誰かが持ってきたのか?」
「このデカさの岩をか?」
そんな言葉で、ざわつく周囲。
岩の長さは最も長いところで50メートルを超える場所もある。高さはちょっとした小高い丘ぐらいはある。5メートルあるかないかぐらい。
ここは何でも知っているラーダ先生に聞こう。そう思って彼の元へ。
「なぁ。これってなんだ?」
「いや。初めてみた。分からん」
彼にも分からないらしい。
まぁ別に街道が使えないのなら、避けて通ればいいだけなんだけどな。ただただ不思議な岩があるというだけで。
ハルにランドクルーザーを出してもらおうとしたところ。突如、地震が起きた。
「おいおい。地面が揺れてるぞ!」
ラーダもジャックもエリスも驚いている。かなり大きな揺れだ。でも地震大国である日本で生まれ育った俺とハルからしてみれば、おっ、デカいな。ぐらいの驚きしかない。しかし、それとは別に周囲に異音が鳴りだしたら話は別だ。
ズズズと何かを引きずる音。
辺りの様子を窺っていた人々。その中の一人が叫んだ。
「お、おい!」
叫び声を上げる男の視線の先を見てみれば、岩が動いていた。グラつきながらも上へ上へと持ち上がっていく。
そして突然、周囲に「ぶおおおおおお!」と言う異音が鳴り響いた。
何が起きているのか分からない。分からないが、かなりやばい事が起きていることだけは分かる。とりあえず俺たちは動く岩から離れ始めたのだった。
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