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 はぁ……  いや。マジで参った。  街に到着したが現在、俺の右腕にはエリスが、がっしりと抱きついている。頬を膨らませながら。  うん。かわいい。  じゃない。  いや。そうなんだけど。可愛いのは事実だが、ちょっと怖い。彼女の愛が重くて……  ラーダにはニヤニヤ笑いながら「愛されてるな」と、からかわれた。  うるせぇよ。そんな気持ちを込めて睨んだら、ラーダは「おー。怖い怖い」と呟き逃げて行った。たぶん宿を取りに行ったのだろう。  俺たちは当初に話し合っていた通り、探索者ギルドへ向かう。俺とハルの登録のためだ。  街なかを歩く。そこは種族の坩堝と言っていいぐらいに混沌としていた。いわゆる獣耳や尻尾の生えた人までいるのだ。  エルフもたまに見かける。ずんぐりむっくりしたヒゲモジャはドワーフという種族らしい。エリスが教えてくれる。人族にも褐色の肌から黒い肌。黄色い肌に、白い肌と実に様々だ。 「凄いな……」  そんな感想が自然に出るくらい人種や種族で溢れかえっている。ジャックが説明してくれた。 「皆、一攫千金を夢見て遠方から集まってきてるんです」  俺はジャックに尋ねる。 「ここが特別なダンジョンなのか? それともダンジョンって少ないのか?」 「両方です。このダンジョンは、この近辺では一番大きなダンジョンです。ちなみにダンジョンの数は把握されているだけで、この国には2つしかありません。ラビリンスに至っては1つだけ」  なるほど。人が集まるわけだ。  そんな街の様子を眺めながら、探索者ギルドを目指したのだった。  門から歩きで30分。 「結構歩くな?」  俺の感想にジャックが答える。 「それだけ街が大きいんです。宿に食堂に武器屋に防具屋。アイテム屋。魔道具屋が乱立しても許容できるだけ人がいっぱいです。本当に羨ましい……」 「羨ましい?」 「はい。僕の故郷は……本当に何にもない街なんです。特産品もダンジョンもラビリンスもなく。主要な街道からも外れた僻地。森に泉に川に……あとは春から夏にかけてですが、時々空が輝く時があるぐらいで。まぁ自然の綺麗な土地といえば聞こえは良いですがね……」  空が輝く?  オーロラかな?  となると北の方か。 「開発する場所は?」 「たいしてありませんね。林業と農業とかもやっては居ますけどね。基本的に貧しいです」  そう言って寂しそうに笑うのだった。
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