64人が本棚に入れています
本棚に追加
068
はぁ……
いや。マジで参った。
街に到着したが現在、俺の右腕にはエリスが、がっしりと抱きついている。頬を膨らませながら。
うん。かわいい。
じゃない。
いや。そうなんだけど。可愛いのは事実だが、ちょっと怖い。彼女の愛が重くて……
ラーダにはニヤニヤ笑いながら「愛されてるな」と、からかわれた。
うるせぇよ。そんな気持ちを込めて睨んだら、ラーダは「おー。怖い怖い」と呟き逃げて行った。たぶん宿を取りに行ったのだろう。
俺たちは当初に話し合っていた通り、探索者ギルドへ向かう。俺とハルの登録のためだ。
街なかを歩く。そこは種族の坩堝と言っていいぐらいに混沌としていた。いわゆる獣耳や尻尾の生えた人までいるのだ。
エルフもたまに見かける。ずんぐりむっくりしたヒゲモジャはドワーフという種族らしい。エリスが教えてくれる。人族にも褐色の肌から黒い肌。黄色い肌に、白い肌と実に様々だ。
「凄いな……」
そんな感想が自然に出るくらい人種や種族で溢れかえっている。ジャックが説明してくれた。
「皆、一攫千金を夢見て遠方から集まってきてるんです」
俺はジャックに尋ねる。
「ここが特別なダンジョンなのか? それともダンジョンって少ないのか?」
「両方です。このダンジョンは、この近辺では一番大きなダンジョンです。ちなみにダンジョンの数は把握されているだけで、この国には2つしかありません。ラビリンスに至っては1つだけ」
なるほど。人が集まるわけだ。
そんな街の様子を眺めながら、探索者ギルドを目指したのだった。
門から歩きで30分。
「結構歩くな?」
俺の感想にジャックが答える。
「それだけ街が大きいんです。宿に食堂に武器屋に防具屋。アイテム屋。魔道具屋が乱立しても許容できるだけ人がいっぱいです。本当に羨ましい……」
「羨ましい?」
「はい。僕の故郷は……本当に何にもない街なんです。特産品もダンジョンもラビリンスもなく。主要な街道からも外れた僻地。森に泉に川に……あとは春から夏にかけてですが、時々空が輝く時があるぐらいで。まぁ自然の綺麗な土地といえば聞こえは良いですがね……」
空が輝く?
オーロラかな?
となると北の方か。
「開発する場所は?」
「たいしてありませんね。林業と農業とかもやっては居ますけどね。基本的に貧しいです」
そう言って寂しそうに笑うのだった。
最初のコメントを投稿しよう!