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予定された撮影はこれで全部終わった。
「凪紗ちゃんありがとう、私達を藍華に会わせてくれて本当に感謝します」
宗秋先生が最後に私に向かって深々と頭を下げてくれた。
「本当は君をうちで引き取らせて貰いたかったが、君は自分で自分の家を選んだんだね。最初は君のお父さんから、次に君が撮影で具合が悪くなった時のおじいさんの姿から、君がどれだけ今のご家族に愛されて育ったのかを思い知ったよ」
「はい」
とても愛されています、今までも。そしてこれからもずっと。
そして私も愛して行くんです。家族とそこに連なる愛しい人達を。
「良い写真を撮らせてもらったよ、日々は短かったが濃密な時間を過ごせた。自分に残された時間がどれだけあるのか分からないけど『秋津島』は必ずこの世に残る。私と藍華の長く続いたこの想いも、やっと昇華されるんだ」
宗秋先生はとても素敵な笑顔だった。良かった、私はちゃんとこの人達の役に立ったんだ。
「凪紗ちゃんは検事を目指しているんだよね、それが夢だとお父さんに聞いたよ。だから写真のモデルはこれ一度きりにすると」
「はい『秋津島』が亡くなったお母さんの心残りだったと聞きました。だから自分なりに頑張ってみようと思ったんです。私がこんな気持ちになれる人間に育ててくれたのは間違いなく出雲の家族です。藍華お母さんにも出雲の家族にも、私はとても感謝しています」
「そうなんだね、君の夢が叶う事を心から願っているよ。今度家に遊びに来て欲しい、藍華の物が色々残っているから見せてあげたいんだ」
「ありがとうございます、ぜひお伺いさせて下さい」
そこでもう少しだけ言葉を交わして、最後に握手をして別れた。大きな優しい手はお父ちゃんを思い出す温かさだったよ。
「凪紗、それじゃあ家に帰ろうか。飛行機とおじいちゃんの車とどっちがいいかな」
高校の入学式は明後日だ、でも飛行機で帰るなんて勿体ない!!ずっと運転をしているおじいちゃんには申し訳無いけど、ここからは家族で楽しいドライブでしょ。
「もちろんおじいちゃん!!みんなへのお土産もまだまだ買いたいし、帰り道で通る所を見るのも楽しみ!」
考えてみたら私は北海道に生まれて初めて来たんだよね。その感動も何にもないうちに緊張の連続だったからとにかく実感が無さすぎる。
「美味しいものも食べたい!特にスイーツ!!」
きっと色々ある筈なのに〜!まさか北海道に来ると思わなかったから情報の収集をまるでしてなかった。残念〜!
せめてこれくらいはさせて欲しいと、桜木さんからはお断りしたモデル代の代わりにお小遣いをもらった。これでみんなに何か買って行きたい。
特にお母ちゃんとお父ちゃんに。
「結構ハードなスケジュールだったのに元気ね〜凪紗。まぁ最近は高速道路のSAとかもかなり充実してるらしいから、きっと楽しみながら帰れるわよ」
莉緒菜おばさんが言ってくれる。おばさんもその手元のスマホで色々検索しているわ。
「じゃあ時間が惜しいからもう出発しよう、桜木さん達へのご挨拶は終わってるから凪紗はメイクを落として着替えなさい、シャワーは使えるからね」
「は〜い」
このメイクを落としたらやっといつもの凪紗だ。おばあちゃんがクレンジングを用意してくれる。さすがに10日もメイクしてたから落とすのは自分で出来るようになったわ。高校生になってもメイクはしないと思うけど。
「アル、次は私が運転するけどどのルートで帰るの?」
次の運転手は莉緒菜おばさんなんだね。
「ああ、仙台行きのフェリーも良いかと思ったけど時間が合わないからね。これから函館に向かおうと思う、無理せずに函館で車中泊をするから途中途中で凪紗をちょっと観光させてあげようかと」
今はまだお昼前だ。朝の撮影だったのが幸いした。時間がありそうで良かった。
「ナビは何時間掛かるって?ああそんな感じね、じゃあ観光には十分ね。ここからは私が運転するわ」
「いや、まだまだ大丈夫だよ。莉緒菜もゆっくりしなさい。君も疲れているだろう?」
「ダメよ、アルは北海道に入ってからずっと運転してるでしょ。私は大丈夫だから休んでちょうだい」
「いや、君だって毎日凪紗の撮影の付き添いで肉体労働だったろうし」
思いやりのある譲り合いだな。しかも二人ともなかなか妥協しない辺りが素敵だ。
「まぁでも、私としてはまだアルが運転して適当な所で私が代わるのが良いと思うけど」
おばあちゃん?
「莉緒菜は生粋のペーパードライバーよ、確かに高校を卒業する時に一緒に自動車免許を取ったけど、それ以来運転をしてる姿なんて一度も見た事ないわよ。あれは譲り合いじゃなくてアルの必死の攻防戦」
ひえっ!それはちょっと〜!!
お、おじいちゃんどうか頑張って!!
「まぁ適当なところで私がなんとかするわ。凪紗はこれでも見てなさい」
おばあちゃんに渡されたタブレットには函館に行くまでに通る街の名所や名産品だ。美味しそうな北海道銘菓のお菓子がいっぱい♡これはお母ちゃんとみぃ姉が喜びそう、このおもちゃはちび組達に良いな。
「凪紗、本当にお疲れ様」
おばあちゃんが頭を撫でてくれる。ちょっとホッとする。
おじいちゃんと莉緒菜おばさんの攻防はまだまだ続いていた。
頑張れ、おじいちゃん。
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