後編終章 拓海・ここから

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   凪紗は新入生総代という事で、入学したその日の内に生徒会執行部に誘われたと言う。  しかし本人は家庭科手芸部に入部を決めていますから、とそれはやんわり断ったという。  その他に学習塾も日数を減らして行くことにした。  ちゃんと凪紗も高校生活を楽しむつもりはあるらしい。中学の時の様なガリ勉一筋だったら一言言ってやらんとならんかと思ったが良かった。  最もこれは、父ちゃんからの一言もあったらしい。  検事を目指すのは許したが、凪紗は凪紗なりにちゃんと人生を楽しむ事が条件だ。好きな事を犠牲にして受験勉強ばかりの人生は豊かじゃない、そんな心の余裕のない人間は犯罪被害者の心に寄り添えないぞ、と。  ちゃんと普通に成長していけとのこと。そのせいで大学の返済不要の特別奨学金を取り損なっても、そんなもん父ちゃんが全部と言い切ったのだ。  はい、ここんとこ重要。凪紗には学費をね。  俺と昂輝にはだ。やっぱりうちの父ちゃんは娘達には大甘だわ、笑うしかない。    そして始まった凪紗の新しい生活もひと月近くが過ぎた頃、その話を凪紗本人から聞いた。 「GWに桜木さんのお宅に?」 「うん、藍華お母さんの形見分けをしたいって言ってくれてるの。うちの家族がご迷惑で無ければって話だけど」 「この話は父ちゃん達には?」 「もう話してる、行っても良いって言ってくれたよ」 「そうか」  ひとりで行くのは心許ないけど、うちの家族を連れて行くのもどうかと。向こうもこっちも無用に緊張しそうだ。 「だからね悠里ちゃんに頼んだの、悠里ちゃんが一緒に行ってくれるわ」 「悠里が?」  確かに悠里ならうちの事情は知っているし、しょっちゅう東京に行ってるから適任と言えば適任だ。 「うん、悠里ちゃんはうちの事情を知ってる従姉妹のお姉ちゃんみたいな感じだもの、すぐに引き受けてくれたわ。桜木さん達も私の付き添いはそういう感じの方が気を使わないだろうってお父ちゃんも言ってた」  確かに出雲家の人間が直で付き添うよりは良いのか。  凪紗は、高校合格のお祝いに父ちゃんからスマホを贈られているから連絡もすぐ着くけど、凪紗を行かせるのは良いとしてもやっぱり一人じゃ心配だもんな。   「お訪ねしたらまずはお墓参りに連れて行ってくれるって。その後藍華お母さんの生家をお訪ねするんだ、きっと色々なお話を伺えるわ」  あとで悠里にお礼を言わなきゃな。GWっていったら北の方もその日はグリーンカウンティのイベントを手伝ってくれることになってるし、カフェの方には母ちゃんと美音が手伝いに来てくれる。結構忙しい予定だ。  父ちゃんとじいちゃんもちび達を連れてそのイベントに来てくれる。きっと楽しませてくれるだろう。  そういう日々がまだまだ続く予定。  けどそれは望むところだ、俺には仲間がいて友達がいてこうして協力してくれる家族もいる。その家族はみんなそれぞれに夢や目標を持ち、それに向かって進んでいる。  実直にひたすらに。  自分なりのペースでちゃんと進んで行くのだ。      ただ躓いた時に差し伸べられる手がそこに有ることは忘れない。  その手を取るもまだ大丈夫と思うもそれは自分次第。ただ自分に甘いだけヤツは出雲の一族にはいないのだ。 67bbbdea-f68a-4e8a-9766-0259d99c80cf  
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