後編終章 拓海・ここから

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   夏になり『秋津島』は無事に刊行された。  凪紗が最初で最後に演じた"白霧の姫"はとても美しかった。藍華さんの演じた"白霧の姫"に負けない程の存在感を持って、冬の章12枚を彩った。  絵心の無い俺にもそれは素晴らしい物だと分かる。  俺の妹は偉い。ちゃんと有言実行してきた。  それは間違いなく出雲の父ちゃんの教えだ。  オーディションまで行われていた幻の写真集なので刊行前から評判が高く、いざ発売になるとそれは即完売。今は重版何回目だっけ?  当然、冬の章を担当したモデルにも注目が殺到。だけどそれが桜木藍華の娘である事は一切公表されず、モデルの名前は"凪"とだけ。  "凪"は"凪紗"に近いので桜木さんも使う気は無かったそうだが、藍華さんの名付けてくれた名前だからと当の凪紗がそれで良いと。  藍華さんの娘だった凪は、永遠に『秋津島』の中で生き続けるのだ。  桜木宗秋と藍華さんの昇華した想いと共に。   「マスコミには眼を光らせておく。凪紗の個人情報を暴こうとするヤツは何者であろうとすり潰す」  うちの父ちゃんは相変わらずだ、ぶっ潰すじゃなくてすり潰すって表現がなんともリアル…  ただ先週、我が家を訪れた桜木さん親子から『秋津島』に関しての話を聞いた。  写真集の印税の30%は凪紗の物だそうだ。これは元々の藍華さんの分も含まれての話で、ある意味藍華さんの遺産だという。  その総額が幾らになるのか今の時点では分からない、だがそれを確実に受け取れる契約にする為に、桜木さん親子はうちの父ちゃんにその仕事を依頼していた。 「凪紗のこれからを支える資金の一部にはなるだろ。学費は俺が出すんだからこっちは凪紗がやりたい事に使えばいい」  こっちもブレない、やっぱり娘には甘い。  そして良い事もあった、宗秋先生の病気の進行が現在かなり緩やかになっているという。  まだまだカメラを置くのは早いという事ですね、と。うちのじいちゃんと楽しそうに話していた。  次の写真集を楽しみにしていると言うと、前向きに考えたいと宗秋先生も笑っていたという。  そして当の凪紗はと言うと、出来上がった写真集を20冊ほど桜木さんから頂いたのだが、その内の一冊をアメリカのアレックスだけに贈ったらしい。  後から昂輝に泣かれてその事実を知ったけど、アレックス宛の写真集にはちゃんと撮影時のエピソードやじいちゃんが撮ってくれたプライベートショット満載で、凪紗の手作り別冊が付いた特別版だったそうで。そりゃ泣くわ。  可愛い妹から華麗にスルーされた昂輝は、あとからうちの母ちゃんがエルンスト分とまとめて送った通常版をそれでも嬉しそうに見たという。  うちの妹はやっぱり超可愛いってさ、こっちも相変わらず。  検事を目指す事を父ちゃんに認められた凪紗は、お盆に帰宅したカナ姉と多分それとなく気づいていた美音の二人の姉に、その話をしっかりとした。  絶対に諦めずに頑張るという妹を二人で抱きしめ「頑張らなくてもいいんだよ、凪紗は凪紗のままで行けばいい」そう言ったのはどちらの姉だったのか。  きっと両方だ。 6566aa35-bd49-417a-a9d0-02df77f41e5e  
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