後編終章 拓海・ここから

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   そして繰り返すように、けれど少しずつ変わっていく俺達の日常。  それはきっと進化へと繋がる大事な日々だ。 「いい風が吹いてるな」  今日は新しく導入した乳牛エリアの新型自動搾乳機が設置される。それを迎える為に放牧エリアの小高い丘に立っていた。  最近は繁殖が上手くいって牛の数が増えたので思い切って機械を新しくした。牛80頭に対して新型搾乳機二台と餌寄せマシンの増大は、その生産性がかなり期待できる規模になる。  徐々に増えてきた出資者のお陰で、グリーンカウンティの可能性が更に拡がって行く。  今の所従業員は企業体に参加している酪農家の家族が主体だけど、この分なら一般の雇用も生み出せそうだ。いつか田代所長と話した様に、支援学校出身で農業に関心のある子供達の雇用も確立して行きたい  グリーンカウンティを構成する主要メンバーは地元のいわき南農業高校の出身者が多い。俺達の活動は今はあの学校の学校の教頭になっている中川先生を通じて周知されている。  そこからゆくゆくは学校の卒業生を新卒で採用して欲しいとの話もある。酪農業の素地が出来てる人材が確保出来ればこちらもありがたい。  次はそろそろ果樹エリアと酒米エリアの拡充だな。果樹責任者の亮先輩が家族の反対を押し切ってとうとう市役所を退職しグリーンカウンティの正式な職員となった。ここからの本格的な規模拡大の為には心強い。  酒米エリアは今の所稲作と一緒に田代所長の親父さんが見てくれているけど、将来的には別部門にしたい。  今は細々とやっている地産地消の日本酒製造をもっと大規模にやりたい。地元の名産品に名を連ねられる位になるように。  その時に考えているのは北のグリーンカウンティ本格参加だけど、あいつも現在は真波酒造の主力の一人だからな。きっと引き抜きが容易じゃない。  今の所あいつには二足の草鞋を履いてて貰うしかない。  まだまだ俺達には、やりたい事もやらなきゃならない事も沢山ある。  俺の専門はLEDによる大規模水耕栽培だけど、この技術も日々進歩していく。勉強も怠れない。  それでも俺達は前を向いて進んで行ける。  自分の選んだこの仕事が、自分の大事な者達の幸せに繋がる事を信じている。  道はひとつじゃない。  手探りの日々はまだまだ続くけれど、それでも俺はそれを追っていく。  幼い頃に出雲の母が繰り返し俺達に教えた、人は幸せになるために生まれてきたんだよ、という言葉をずっと胸に留めたまま俺たちは進んで行く。 9fea9678-2865-49c3-9fb1-4e183260d450  終わり  
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