第一話・三人のアンチヒーロー

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第一話・三人のアンチヒーロー

 米国内、アンダーギルシティー。  某日某所、未明。  突如、がつんと大きく地面が揺れた。その揺れは一定の間隔、一定の大きさの揺れで、地震のように小刻みな揺れではなかった。揺れは北へ北へと進む。揺れが過ぎた場所には大きな陥没が起きていた。まるで、何かの足跡のようだった。  それは後日、大きく新聞の一面を飾っていた。なんとも禍々しく、神々しい、邪神のような姿をしていた。  街への被害は北の方へ続く足跡のみだったが、道路の封鎖に伴う混雑と混乱、人々への被害はそれだけでも損害が大きかった。  そうして、州政府は謎の生命体を駆逐する算段をつけるため研究を始めた。分かったことは、「邪神なんかではない」と言うことと、「最近の隕石と何らかの関係のある、“人工”生命体である」と言うこと。明らかに人工的に作られたと言うこと以外、何も解明されていないが、人類が生み出してしまった怪物ならば、人類が片付けるしかあるまい、と政府は考え出した。そして導き出された結論は、  「未知の人工生命体を駆逐する組織を発足する」。  その組織の名は「アニマ・ヒーローズ」。かの生命体を駆逐するためだけに発足された組織は、多くの人々を呼び寄せ、さまざまな魔法道具を分け与えると、各々に合ったヒーロースーツを渡し、さまざまな試練をクリアしてもらうことで、ようやく公式のヒーローとして働くことができるようになると言う仕組みで、多くのヒーローを産出した。公の企業として活動を始めたアニマ・ヒーローズは、政府からの依頼で、生命体の研究も同時に行うこととなった。研究機関とタッグを組み、人工生命体、「アニマ・ヴィラン」と名付けられたそれの駆逐に見合った魔法道具の開発を進めた。また、ヒーローの中には魔法使いも存在し、魔法道具を使うことによってさらに強力な人材となることが判明した。それに伴い、アニマ・ヒーローズは魔法使いの募集をより多くかけることとなった。  魔法使いでも、魔法が使えないノーマルの人間でも、誰でもヒーローになれるという謳い文句で、人々の支持を集めていった。  そんな中、いつものようにヒーローズがアニマ・ヴィランの駆逐活動を行なっていると、見知らぬ団体が、ヴィランを横取りした。その団体は明らかにアニマ・ヒーローズのものではなく、のちにアニマ・ヒーローズは、その団体と一切関わりがないことを記者会見にて表明した。その団体はヴィランを倒し、研究のためと言って、ヴィランをどこかへ持って行ってしまった。そこら一帯は騒然となり、連日ニュースに取り上げられるほどとなった。  彼らを、アニマ・ヒーローズは「アンチヒーローズ」と呼んだ。  アニマ・ヒーローズが政府の名の下、法律という名のルールに則って行動しているが、反面、アンチヒーローズは法律などのルールは一切無視、自由奔放にアニマ・ヴィランの駆逐のみを目的とした、民間の団体である、と言うことが判明した。  彼らの自由さ加減にはほとほと呆れるが、その自由さ故に、支持をする若者が一定数存在していることも確かだった。  ニュースでは彼らの対立と共に、アニマ・ヴィランと言う存在がどちらの手によって駆逐されるのか、彼らヒーローズの出現と共に、エンターテインメントとして取り上げられるようになっていった。また、政府はアニマ・ヴィランの出自を割り出すために、秘密裏に「双方」に依頼をすることとなり、その面でも二つの組織は睨み合いつつ、時には協力して、ヴィランの駆逐に挑むのであった。   *  海から這い出たアニマ・ヴィランは北へ北へゆっくりと歩みを進める。紫外線を多量放出するその人工生命体は宇宙から来た、と言うことで間違いはないと結論付けられた。  甚大な被害を受け続ける街、アンダーギルシティー。もはや、この街にはヒーローズしか残っていない、半ばゴーストタウンの様になっていた。「アニマ・ヒーローズ」の活躍の成果もあって、元々街の中心部に住んでいた人々は、全員無事で、アンダーギルシティーの端の方に追いやられつつも彼らの活躍を応援していた。  「ラブ&ブレイクッ‼︎」  ピンク色で、可愛らしいシールがついた斧を振り回す一人の青年。可愛らしい見た目とは裏腹に、どこか低い声が響く。  「神に捧げてやりマス」  もう一人、彼の後ろから援護射撃をする少女がいた。彼女もピンク色の武器を手にしていて、お揃いなのだろうシールがついた拳銃を器用に扱っていた。  「にいちゃんの邪魔はさせないッ‼︎」  そしてもう一人。ツインテールの青年は自分の身長よりも大きなコルセスカを振り回し、二人の、と言うよりは斧を振り回す青年の援護に徹していた。可愛らしい見た目だが、彼も、斧を振り回す彼も、れっきとした男だった。  「ちょっと、邪魔しないでくだサイ」  「うるさいな電波女、すっこんでろよ!」  仲の悪い下の姉弟は、兄である、マゼンタの為に己の得意な武器を駆使して、「アニマ・ヴィラン」に攻撃を繰り返していた。  彼らは俗に言う「アンチヒーローズ」の内の三人で、実の兄弟である。三兄弟はその可愛らしい風貌と逞しい戦闘、そして息の合ったコンビネーションが話題を呼び、今では注目の的となっていた。  彼らの頭上でヘリコプターが音を立てて飛んでいる。その中から覗くリポーターは彼らの戦闘の様子を興奮気味にカメラに向かって喋っている。それを見つけたマゼンタはリポーターに向かって手を振った。  「アッハハ! 見ててよ〜‼︎」  楽しげに斧を振り回し、走る。勢いをつけて、地面を強く踏み込み、高く飛び上がる。目の前には数メートルほどの高さのアニマ・ヴィランがのそのそと歩いている。しかし、ヴィランはマゼンタに気が付いた。斧を振り下ろすその瞬間、ヴィランは巨大な手で、マゼンタの斧を砕き、もう片方の手で、マゼンタを掴んだ。  その瞬間はしっかりとカメラに映されてはいなかった。砂埃が舞い、視界が遮られる。長女であるレッドエンジェルと、次男であるチェリーピンクは唖然としていた。長兄がヴィランに捉えられるところを目の当たりにしてしまった。  「……え?」  チェリーピンクは走った。「にいちゃん‼︎」そう叫びながら。「ちょっと、マリア待ってくだサイ‼︎」レッドエンジェルもその後を必死に追いかける。  マイク付きワイヤレスイヤホンに指を添えながら呼び掛ける。  「にいちゃん、にいちゃんどうしたの⁉︎」応答は無い。今まで無かった事だった。段々と視界が晴れてくると、リポーターの興奮気味の声も復活する。ヒーローであれ、アンチヒーローであれ、彼らも人間である事に変わりは無い。今一度思い知らされた出来事だった。リポーターは空いた口が塞がらないと言う風であったが、不意に口角が上がる。  「あっ、マゼンタが、マゼンタが生きています‼︎」  血だらけになったマゼンタはヴィランの手から這い出ていた。斧は砕かれてしまっていた為、かろうじて通信が出来るイヤホンに呼び掛けた。  「……き、聞こえる? ボクの、大好きな兄弟、たち」  今にも気絶しそうなほどの震えた声で呼び掛ける。  「待ってて、今行く‼︎」  チェリーピンクは直様応答してギアを上げて走り、飛び上がった。その様子を弟の後を追いかけながら走っていたレッドエンジェルは大きく溜息をついて見ていた。同じ様にギアを上げて飛び上がる。  「にいちゃんの為に‼︎」  「兄さんの為に‼︎」  同時にそう声を上げると、ヴィランに向かって一斉に攻撃した。レッドエンジェルはマゼンタを握る手に向かって連続で射撃する。チェリーピンクはコルセスカを振り回すと、それは一回りも二回りも大きくなり、その槍で、ヴィランを貫いた。刃先が地面に到達した時点でヴィランは醜い声を上げて真っ二つに切れて倒れた。  手に向かって攻撃を繰り返していたことで解け、マゼンタは力無く地面に落下していく。レッドエンジェルはそれを必死に追いかけ、地面に落下する寸前で受け止めた。受け止めたは良いが、反動からか、体力も残り僅かだったか、二人は地面にそのまま倒れ込んだ。  倒れたアニマ・ヴィランに槍を突き立てる。その瞬間、頭上から歓声が上がった。リポーターやカメラマンが喜んでいる様子だった。それを見上げたチェリーピンクは中指を突き立てた。  マゼンタの元へ走って向かうと、気絶している様だった。レッドエンジェルをどかしてマゼンタを抱える。  「にいちゃん、にいちゃん大丈夫?」  声を掛けるも応答は無い。力任せにどかされたレッドエンジェルは地面に唾を吐きながら上半身を起こす。「……全く、姉を突き飛ばすとは、いい度胸デスね……お前が代わりに潰されれば良かったのに」と吐き捨てる。「ほら、救急呼ぶゾ」と最後の力を振り絞ってスマホを取り出し、救急に連絡した。その後、ある人物に連絡をかける。三兄弟の末っ子であるチェリーピンクは長兄のマゼンタのことが心配で仕方なく、救急隊が車での間ひたすら抱き締めていた。
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