0人が本棚に入れています
本棚に追加
甲子園での応援をしたくて強豪校に入学した。
そして野球部のマネージャーになった私。
3年の夏は私にとっても最後のチャンスだ。
「おまえを甲子園に連れて行く!」
あの日、同級生の彼が私に誓ってくれた。
ふたりの1番最初の約束だ。
彼、克也は野球部のエースで四番。
そしてキャプテン。
私は密かに思いを寄せていた。
「もしも、甲子園行きが叶ったら……。
その時にはオレと付き合ってくれ」
そうも言った克也を、そしてチームを、私は全力で応援した。
甲子園に行きたかったから。
克也と付き合いたかったから。
結局チームは負けて、甲子園行きは叶わなかったけど。
それでも私たちは付き合うことになった。
あの夏から5年経った今、私たちは結婚した。
彼と私の「甲子園行き」の夢は叶えられなかった。
でも。自分たちの間にもし男の子か産まれたら……。
その子に託したい夢になった。
子どもに甲子園に連れて行ってもらうこと。
まだまだ遠い未来だけど、とっても楽しみな夢。
*******
私の「甲子園行き」の夢。
それは思わぬ形で、予想以上に早く叶うことになった。
克也の弟、貴也のチームが甲子園行きを決めたのだ。
貴也が甲子園に連れて行ってくれる!
克也は仕事で行けないけど、私は甲子園に応援に行く。
とってもドキドキで楽しみだ。
そして。もうひとつドキドキしていることがある。
甲子園の予選前に貴也とふたりきりになった時に彼が言ったこと。
「もしもボクが甲子園に行けたなら……。
お義姉さん、ボクを男にしてください!」
義理の弟の突拍子もないお願いに驚いた。
もちろん真に受ける訳もなく、冗談だと思った。
まさか甲子園に行けるとも思ってもいなかったし。
「はいはい。本当に行けたらね」
と笑いながらその時は軽く受け流した。
「お義姉さん、絶対! 約束だからね!」
いつになく真剣な眼差しの貴也。
可愛いヤツだなぁ、なんて微笑ましくさえ思った。
その時は。
でも。貴也の甲子園行きが決まった。
直後から彼の様子か変だ。
最近、会う度にやたら視線を感じる。
そして克也が居ない隙をみて、意味深なことまで言ってくるようになった。
これって、貴也と私はイケナイ約束をしてしまったことになっている?
貴也がいつ行動を起こしてくるのか、会うたびにとってもドキドキしている。
たとえ貴也が「約束したよね」と言ってきたとしても、それには応じちゃいけないんだけど……。
もしもそうなってしまったら、抗いきれない未来の自分が見える。
だって。貴也、強引なんだもん。
それに。克也よりタイプだったりするんだもん。
克也にバレないように、一回くらいならいいかな?
克也は「甲子園に連れていく」というあの約束、守れなかったけど。
貴也は連れて行ってくれる。
私も約束は守らなくちゃ、だよね?
《 了 》
最初のコメントを投稿しよう!