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「いいかげんにしてくれ。」
思わず立ち上がり、目に涙を浮かべ、怒りを露わにしているいままで見たことのない篤くんの姿に私は驚きを隠せなかった。
「梨香子の何を知ってる?あいつは優しいのに傷ついてばかりで…友達と彼氏には裏切られて、その彼氏とは去年の夏に別れてる。俺は全部知ってて、付き合ってんだよ。
何も知らない外野にごちゃごちゃ言われて、梨香子が傷つくのは、もうたくさんなんだ。
これ以上、梨香子を傷つけたりするなら音羽も優香ももう縁切る。」
篤くんはいつもにこにこしていて、優しくて……
優香がやらかしても「またかよ。」とか言いつつもフォローしてくれるような人。
私がフランスに行く事になった時も
「音羽、俺が子どもで力がないから音羽を守りきれなくてごめん。向こうに着いて落ち着いたら、連絡してくれ。すぐには無理でも会いに行くから。」
って言ってくれた……
それが縁切るって……
「ちょ、ちょっと待ってよ。飯田くん。」
優香が篤くんを宥めようとするが、私は、篤くんの怒ったところなど今まで見たことがなかったせいか動揺していて、言葉もでない。
「俺は、音羽とはなんとなく付き合い出して、あの頃は大切にしようと思っていたけど、離れることになってさ。子どもだったから諦めたとこもある。あれから随分経つし、もう恋愛感情はなくても、幼なじみだからずっと友達でいようと思ってた。
でも彼女は…梨香子は、毎日近くにいて、どんな子かわかった上で、俺が自分から好きになったんだ。
それを否定するんじゃ、音羽とはもう友達でいられない。」
「飯田くん…」
「優香も同僚として仕事の範囲内では付き合うけど、音羽の肩を持つならもう…」
「…篤くん、私は…」
肩を落とし、思わず涙が流れて来た。
私、何か間違えてた?
何か見落として、突っ走ってた?
「飯田くん、音羽は私が見るから。」
私は呆然と彼を見送る事しかできなかった。
優香がそう言うと篤くんは店を後にした。
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