プロローグ

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プロローグ

 それは、雪の舞う冬の夜のことだった。  ある空き家に、一点の温かい色をした光が灯っている。どうやらそれは、赤いフレームの中に火が燃えているランプのようだ。そのランプはところどころにひびが入っており、今にも壊れそうだった。  壊れかけのランプはベッドの脇にある、これもまた今にも朽ちていきそうな机の上に置かれていた。そしてそのランプに手を伸ばす、一本の腕があった。どうやらそれは、少女の手であるようだ。  腕はかなり痩せている。腕は肌の白さと相まって、今にも消えてしまいそうなほど儚く見えた。  その腕の持ち主は、ベッドの上で四つん這いになり、ランプに右手をかざしている。ランプの光がその人物を映し出している。目は黒色に近いほどの深い青。鼻は高く、まっすぐと通っている形の良いものを持っていた。唇は寒さのせいか固く結ばれているが、その薄い唇が普段、花のような微笑みを浮かべる様を想像できるような、そんな雰囲気を湛えていた。年は9.10歳頃だろうか。フードを被っているため、髪は見えない。また、顔の肌はなんらかの汚れで染まっていたが、汚れを落とし、表情を明るくしたならば、美しく、愛らしい顔であることは容易に想像できるような、そんな顔だった。  少女は手を擦り合わせ、白い息をその両の手に吹きかけた。その時、ぐう、と少女の腹から音がした。少女は顔をしかめ腹を抑えると、ゆっくりと体を動かし、ベッドの上に横になる。  少女はもう、二日間ほど水以外の物を口にしていなかった。そしてその水も、水道設備からの水ではなく川の水であり、少女にとって運が悪いことにどうやら体に悪い物質が入っていたようで、彼女の体調を乱していた。  少女はぼんやりと天井を見つめる。  彼女は体をさすりながら、胸の中で自分に言い聞かせた。  早く体調を良くして、ここを立ち去らなければ。誰にも見つからないようにしないと、と。  少女は体調の悪さと夜の暗さから、孤独をひしひしと感じていた。   まるで心を温めようと、ランプのわずかな温かみに再び手を伸ばそうとしたその時。  バタン、と空き家の扉が開く音がした。  少女は怯えた瞳をそちらに走らせる。そして、彼女は体を起こそうとしたが、体力の限界からか、なかなか思うように体を動かすことはできない。  足音が少女に近づいてくる。どうやら複数の人物がいるらしい。  もしかしたら賊かもしれない。と彼女は思った。  そもそもここは城下町の中にある、治安の悪いスラムなのだ。賊がいたとしてもおかしくない。  もしかしたら、殺されるかもしれない。  少女は目を固く瞑り、体をこわばらせた。 「そこにいるのは誰だ!」   野太い男の声だった。  その声に少女は怯え、体を小さくする様に丸くなる。  そんな少女の様子に構いことなく、男たちはさらに歩を進め、少女に近づく。 「何者だと言っているんだ!」  男の手が少女のフードを荒々しく頭から外す。  彼女の顔、そして髪の毛を淡いランプの光が照らした。
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