13人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
パパのお仕事
パパのお仕事は少し変わっている。
スーツにネクタイを締めてお仕事するけど、友達のパパみたいにサラリーマンやコームインってやつともまた違うみたい。
一応社長なんだけどパパを社長と呼ぶ人はいないし、同級生のタツヤくん家みたいにお店でらーめんを作ったりもしない。
小学校の宿題で「お父さんの仕事」をテーマに作文を書くことになった関係で僕は最近、パパの仕事を見学させてもらっている。
「困りましたね……あなたの言い分もわかります。みなさん必ず同じことをおっしゃるんですよ。でもね……」眉毛をハの字にしてパパは小さくため息をつく。
言葉や見た目ほど困っていない。僕は、パパのことならなんでも知っている。
「借りたお金を返す。期限はとっくに過ぎているんです。あなたにもご都合があるのでしょうが、約束は約束です。」
小学校では「借りたものはかならず返しましょう」と習うけれど、それができない大人は多いみたい。できない約束なんてしなければいいのに。大人って不思議だ。
「あ、逃げても無駄だと思いますよ。外には私なんかよりもよっぽど怖い人たちがいっぱいいますから」
パパが説明してもお兄さんは聞く耳を持たない。走り出したお兄さんを必死に黒いスーツのおじさんたちが追いかけている。急にはじまった鬼ごっこに目を輝かせる間も無く、アパートを出たところで呆気なくお兄さんは捕まり、外の車へと連れてかれてしまった。
「ご苦労さん、俺たちは組に戻るわ」
黒服のおじさんがそう言うけれど、何組の人なのだろう?少なくても僕とおなじ2年2組ではないし、かなり年上の上級生かもしれない。
「ちぇっ鬼ごっこ僕もやりたかったな」僕がつまらなそうにしていると
「今度、パパとやろうな、約束だ」
パパが優しく笑うのでジュースも買ってもらったし、よしとした。帰り道に見た夕日はジュースとおんなじ色で、ストローで吸ったらきっと甘くて少し酸っぱいのだろうなと思った。
【パパのお仕事記録メモ】
依頼者:南雲組
依頼内容:借金返済のお願い
組っていうのはクラスのことではないらしい。
あと南雲組のことはあんまり作文には書いちゃダメなんだって。大人の事情ってやつだね。
最初のコメントを投稿しよう!