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 暁人とセイ、十歳の八月十六日。  その日は何百年かに一度、流星群がたくさん見られる日なのだと暁人はテレビで知った。  さっそく昼間、アキは近所のセイの家まで走った。とにかく必死で。  当時は携帯電話なんて持っていなかったので、伝書鳩ならぬ伝書人間のつもりだった。  いま思えば家の固定電話にかけてもよかったのだろうが、急いでいた幼子には思いつかなかったのだろう。 当時のセイの健康状態を考えると、むしろ暁人のほうが強く流れ星に願いたかったのかもしれない。  十歳のセイは、比較的発作の起きやすい喘息持ちだったのである。  小二の頃、セイは都会の学校から暁人の住む田舎へと引っ越してきた。  少しでも空気がいいところで静養させたいという、セイの両親たっての希望だと聞いていた。  一クラスしかない小学校の、暁人とセイは隣り同士の席になった。  儚げで引っ込み思案で小柄なセイと、クラスではそれなりに体格の大きかった悪ガキの暁人。  都会から来たセイは、同じクラスの芋っぽい女子とは違う、子ども心にも惹かれる洗練された空気をどこかまとっていた。  だからこそ、病弱なセイを学校で護るのは暁人の仕事だと勝手な使命を抱き、また引っ込み思案のセイも自ら友達を作ることが苦手だったこともあり、押しの強さと受け身の二人の距離はあっという間に縮んでいった。 やがて悪ガキだった暁人は、セイを守る真面目な騎士へと成長していく。 初恋だった。 はっきり口にできるほどセイのことが好きで大事な存在だったし、原動力だった。  だからこの日も、暁人の話を聞いたセイに流れ星にお願い事をしたい、なんて言われたから絶対に叶えてあげたかった。  あと先など考えず、セイの部屋の二階の窓から木を伝い、無理やり外へと連れ出していたのである。  八月十六日の夜八時、二人だけで。  
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