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 午後八時ちょうど。  子どもの頃は遅い時間の集合に、やたらとドキドキとしたものだ。  だが、年数を重ねた今となってはなんてことのない夜八時。  街のはずれにある大きな樟が立つ小高い丘に立ち、暁人は煌々と星の代わりに照らし出す家の明かりを見下ろしていた。  チーと鳴り続けていた蝉も、そろそろ眠りにつく頃だろうか。  生ぬるい夏の風とともに、辺りには静寂が訪れていた。  今年こそ、セイは来るだろうか。  すでにびっしょりの白いTシャツの背中は、きっと汗だけで濡れているわけではないだろう。  携帯電話の液晶で時刻を確認して、まだ八時五分だし、と自身に言い聞かせてみせる。    約束の場所へ向かう途中、出かけに兄貴が言った言葉を額面通り素直に暁人は受け取れなかった。  だけどわかっている。  もうそろそろ、あの日の約束はこの辺が潮時なのであることを。  ずっと待っているのに、いや、セイから最初に言い出したことなのに、結局あれから一度も約束の場所にはやって来ない。 「俺って、演歌みたいに一途な蠍座なんだろうなあ。激重だよな……」  いよいよロックアイスが溶けだしてきた袋からビールひと缶取り出すと、プルトップを開け、煽るようにぐっと飲み干した。 「あー! 信じらんない」  背後から不意に咎めるような低い声が聴こえてきた。 「どうして先に、ひとりで吞んじゃうかなあ?」  続けて咎めるように指摘された暁人は、ぎょっとしながら背後を振り向く。 「だ、誰?」  ニコニコと笑みを浮かべている男は、まったくもって見覚えのない顔だった。  しかも暁人よりだいぶ年上っぽい。  三十代……前半だろうか。  とにかく巨木のように背が高い。そして白いワイシャツの上からでもわかるほど、熱い胸板や肩から腕にかけての筋肉がとにかくがっしりと鍛え上げられている。  まるで、大晦日に見る格闘技選手のようだ。
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