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「ねえ、俺もそのビールもらってもいい?」  ほぼ残りがない缶を素早く暁人の手から奪うと、なんの躊躇いもなくそのふちへ男は口づけた。  だが、いくら口を開けても中身がこぼれ落ちてこなかったようだ。   「え! 信じられない。もう全部吞んじゃったの?」  苛立って、子どものように騒ぎ立てる。 「す、すみません」  知らない男に気圧され、なぜだか暁人が謝罪していた。  どうして今、見知らぬ男にビールの缶を奪われ、そして飲み干してしまったことを責められているのだろうかと疑問を抱きつつ。 「じゃあ、これ……吞みますか?」  躊躇いながら暁人は袋の中からまだ冷えている、残りのひと缶を躊躇いながらおずおずと差し出した。  出かけに兄貴からセイのためにと持たされたやつだ。  一瞬、幼き日のセイの顔が脳裏によぎる。  もしセイが来たら、デイパックの中にしまってあるジュースを渡せばいいし、いや、今年ももしかしたら──。  諦めがほぼ九割だった。 だったらこの人に呑んでもらったほうがビールも幸せかもしれない。  逡巡してそれ以上、セイについて考えるのを無理やりやめた。 「なんだ、もう一本あるんじゃん。じゃあ遠慮なくもらうね。ありがとう」  感謝の言葉を口にこそしていたが、特にありがたがる素振りもなく素早くプルトップを開け、ごくごくと喉をならしながらビールを吞みはじめる。  豪快な吞みっぷりのよさに、隣りにいた暁人は呆気にとられた。  やがて、ぷはあと声を上げた男は、早くもビールを飲み干したようだ。口許を無造作に拭う動作だというのに、暁人はその躍動感に目を奪われる。 「美味しかった。ごちそうさま」  満面の笑みで男は顔の前で手を合わせた。  とはいっても、実際には缶を持っているので手を合わせるフリになってしまっていたのだが。  立派な身体つきとは違い、とても人懐こくコロコロと表情を変える男だなと暁人は思った。    
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