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「──で、こんなところでなにしてるの?」
呑み終えたところで満足したのか、唐突に暁人に話を振ってくる。その目は爛々としていて、興味本位なんだろうなとわかってしまった。
「人を待っていまして」
迂闊に喋ったらまずいなと判断した暁人は、漠然と事実のみを、街の方へ視線を向けながら答えた。
「待ち合わせかなにか?」
さらに男の尋問は続く。
「はあ、まあ……」
どうしよう。
いつまでこの男はいるのだろう。
というか、この男はいったい何者なんだろう。
金髪の長髪を後ろでひとつ結んだ姿は、さすがにホームレス、ではなさそうだ。
だとしたら、男は一体……。
急に暁人は不安になってしまう。
「こんなひと気のない街のはずれで待ち合わせなんて、めずらしいね」
暁人の不安などつゆ知らず、軽い口調で男はまだ喋りかけてくる。
「そうですね」
正直、得体の知れない人物とはあまり関わり合いを持ちたくない。
視線を合わせないようにさりげなく下を向く。
早くどっか行ってくれないかな。
なんて、心で願いながら。
「へえ、奇遇だね。俺もなんだよ」
残念ながら願いは届かなかったらしい。
会話をやめるどころか、暁人の話に乗ってくる。
これはまともに相手したらマズかったやつだ。とにかく適当にあいづちだけを打つ。
街のはずれにあるこの場所は、今でこそ公園として整備されている。が、昔からこの一帯に住む人たちには、天に向かってただそびえ立つ大きな樟からただならぬ気配が昼でもなんんとなく薄気味悪いと、敬遠されている曰くつきの場所とされていた。
すぐ裏手に墓地があるのも原因のひとつだろう。
だからこそ、男がめずらしいと口にしたこともよくわかる。
実際に暁人も男に対しそう思っていたからだ。
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