あー、あの日の わいの冒険 2年生 その5「彼女の裏の顔 なんて恐ろし〜」

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 夏休みも終わり2学期が始まった。  わいは、夏休みの宿題が終わらず、しばらくは毎晩母ちゃんに怒られながら、しんどい毎日を過ごしていたけど、それもやっと落ち着いた。  学校では最近、休み時間、健ちゃんとのぼる君と遊ぶ。  健ちゃんは2年生になって広島から転校してきた横にでっかい子。野球やってて、大の広島ファンや。転校してきた当初は阪神ファンにビビってたみたいやけど、今は慣れたみたいで赤ヘルならぬ、赤キャップかぶって登校してる。  のぼる君は、物静かな不思議な子。何となくそこにいる。何となく参加してる。何となく一緒に笑ってる、何となく一緒に悲しんでいる。そう、そして2学期同じ班になったから、何となく一緒に遊んでる。健ちゃんがいるから、休み時間に柔らかいボールで手打ち野球よくやったけど、何となくうまい。でも、あんま喋らんから、何となくなんかよくわからへん。  と、まあ、2年生の2学期はこのメンバーでよく遊んでたんや。  もちろん、隣のクラスになってもうたサッカー少年の親友ゆたやん(森野豊)や、わいより足の速くでデカいライバルのみかん(宮地優奈)とも、たまには遊ぶで。  まあ、だいたいいっつも外で、ドロケイしたり、野球したり、ドッチボールしたりやけどな。でも最近なんか、みんなあんま外出てこうへんようになってもうたんや。  今日も外に出てきたんは、わいと健ちゃんと、のぼる君だけや。いっつもクラスにいる他の野球部の子と対戦するんやけど、最近出てこうへんねん。ま、うちら3人で遊んでもええねんけど、やっぱ人数、もうちょっとおった方がオモロいからなー。 「なあ、健ちゃん。みんなどないしたんやろ?」 「なにしよんかいのう?」  そう言いながら3人で教室に戻ってみた。  いつもの野球部メンバーが片隅で本を読んでいる。 「どないしたん? 野球やろう」 「お、おう」  彼は健ちゃんといつも張り合っている野球部の大石(おおいし)智也(ともや)君。彼の周りにはいつも野球部の仲間が何人か張り付いていた。 「なっちゃん健ちゃんも、これ読んでみ」  といって大智君は一冊の本を目の前に挙げた。  健ちゃんと一緒に覗くと、それは、魔球と書かれた野球の指南書のような本で、漫画を交えて変化球の投げ方が面白く書かれていた。「へぇ〜」って健ちゃんがちょっと見たけど「わしピッチャーちゃうし」って言ってすぐにあきた。  わいは最初から関心なかったから見んかったけから、その間、ようく教室を観察すると、なんかむっちゃ本を読んでいる人が多かった。そういえば、うちの教室って学級文庫がむっちゃ充実してたんや。学級文庫って分かる? 各教室にある貸し出し可能な本やで。みんなが持ち寄ったり、図書館から持ってきてたりした本。  他の教室は20冊もあれば多い方やったけど、うちの教室は後ろのロッカーの上、端から端まで並べられ、それでも足りず、端っこには特別な本棚が据え付けられていた。あまりの充実ぶりに、たまに隣のクラスの子が借りにくるぐらいや。  そして、この学級文庫の片隅に、本を整理している図書委員の南向(みなみむかい)南向一穂(かずほ)さんがいた。小さくて丸い顔の彼女が、いつもせっせせっせと本の整理をしている。ある時は図書館から、ある時はどこかから、本を持ってきては補充したり入れ替えたり。図書委員は他にもいたけど、いっつも彼女がほとんどの事をやっていた。  かずちゃんって呼ばれてたけど、わいはあんまり接点がなかったから名前呼んだこともなかった。わいの印象は本好きの真面目な子やなってぐらい。  そんな彼女が、のぼる君に何か本を渡していた。そして、のぼる君がページをめくって熱心に本を見始めたんや。 「何の本?」  のぼる君が見せてくれた本は「信長の真実」という半分漫画のような本やった(歴史漫画は持ち込み可)。それを、のぼる君が熱心に読んでいる。  のぼる君、こんなん好きやってんな…… 「行こう、なっちゃん」  健ちゃんに声をかけられて二人で外に出た。二人しかおらんからキャッチボールをする。みんなが外で遊ばなくなった原因がわかった気がした。みんな本を読んでたんや。 「つまらんな、本なんか読んで」 「わし、本は読まんけー」 「健ちゃん、わいらだけでも絶対、外で遊ぼうな] 「もちろんじゃけえ」  その日は、面白くないキャッチボールをひたすらやった。  次の日。  健ちゃんは「広島の選手名鑑」なるものを熱心に読み(ふけ)っていた。南向さんに渡されたらしい。 「け、健ちゃん?」 「お、おう。これ読み終わったら行くわ」 「……」  こんな本どこから持ってきたんや南向さん。  そして健ちゃん陥落……  そう思った時、後ろでボソッと『ちょろいな』って声が聞こえた。  振り返ると、南向さんがすました顔で本棚の図書を整理していた。  !!( ゚д゚)  わいは聞いたで、たしかに彼女の口からそんな言葉が漏れたことを。  そして『外遊び撲滅計画』と南向さんがまた何か呟いたんや。  な、なんや、ぼくめつって何や? なんかよく分からんけど怖い。  南向さん、ま、真面目な顔して恐ろしや……
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