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ある夜、巣の中のエサが集められた部屋に、一匹のアリが入ってきました。この巣の中で一番若いアリです。キョロキョロと周りを見ながら、エサを持っていこうとします。
「何をしているんだい?」
部屋の入口から声がします。入口にいたのは、リーダーでした。
「リ、リーダー」
若いアリの顔から血の気が引いていました。
「す、すみません。こんな泥棒みたいなことをして、本当にすみません」
若いアリは必死に謝ります。
「もしかして、キリギリスくんにあげるエサかい?」
リーダーの言葉に、若いアリは小さくうなずきました。
「はい。そうなんです。キリギリスさんがエサがほしいって言って、それで……」
「それならこれを持っていったら良いよ」
リーダーが出したのは、特大のエサだった。
「僕もキリギリスくんのファンなんだ。ぜひこのエサをキリギリスくんにあげてよ」
「ありがとうございます。リーダー。きっとキリギリスさんも喜んでくれます」
若いアリのその目は、キラキラと輝いていた。
何度もお辞儀をしながら、特大なエサを持って部屋を出ていった。
「どいつもこいつもバカだなあ」
部屋に一人きりになって、リーダーがボソリとつぶやく。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
「あのエサには、猛毒が入ってる。キリギリスが食べたら、ひとたまりもないだろう。想像するだけで、笑いが止まらないよ」
はっはっはっは。
部屋にはいつまでも、リーダーの高笑いが響いていた。
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