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周りの連中は「彼女が欲しい!」と言う。
俺もそれまではいつか……その程度だったのだが、実際は……ただ、辛かった。
かわいいとは思う。
小さくて、にこにこしている坂野は好みではあったから。
だが、眉を寄せて不満げにする姿や泣きそうに目を潤ませてこられるとどうしたらいいのかわからない。
坂野は常に一緒に居たがったし周りにも「バカップル」と呼ばれていたが、俺には窮屈でしかなかった。
同じバスケ部のやつらも気を遣って坂野が居ると声を掛けてくるし、土日に遊ぶバスケにも誘われない。
限界はすぐに感じていたのに、言葉にできないまま……中三の五月。
「誠也は家に帰って私のこと思い出したことある?」
わざわざ廊下の端に呼ばれて何かと思ったら……坂野が泣き出して俺はその場で動けなくなってしまった。
「いっつもメッセージ返してるだろ?」
自分でもわかるほど声が上擦っていて、バクバクと心臓がうるさいのを抑えられない。
「たまにじゃん」
「だから、俺はマメじゃないからそれは……」
坂野がくっついてきて俺は口さえ動かなくなる。
俺の胸元に顔を埋めて泣いている坂野。
その背中を撫でてやればいいのか?思うが手は出ない。
「誠也は私のこと好きじゃないでしょ?」
ぽろぽろと流れる涙は俺のせいなのか?
思うと何もできない。
「もう辛い……別れよ」
「……あぁ」
言うのが精一杯だった。
自分が言ったくせに更に眉を寄せて辛そうにした坂野が走って行くのを俺はただその場で見ていた。
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