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大晦日、介護施設で働く母さんは夜勤で、言われていた通り父さんと兄貴と男三人で鍋を食べきる。
洗い物を終える頃に風呂から出てきた兄貴はパジャマ姿で冷蔵庫を覗くと、プリンを持って今度は棚のスプーンを漁り始めた。
「あれ?光輝、出かけるんじゃなかったのか?」
リビングで飲んでいた父さんはスルメを咥えながら首を傾げる。
「……別れたんだよ」
「いつ?」
「……昨日」
ぶすっと膨れる兄貴に父さんは手招きをした。
「飲むか?一緒に飲んだことなかっただろ?」
こっちにも視線を感じて俺はおちょこをカウンターに置く。
先月、兄貴は二十歳になったが、酒を飲む姿は見たことがない。
「誠也も二十歳になったら……な!」
カウンターまで取りに来た父さんに笑われて俺は少しだけ頷いた。
そのままキッチンから出る俺に「風呂か?」と聞かれて首を左右に振る。
「ちょっと出かける」
「そっか、外は寒いからあったかくして行けよ」
笑いながらポケットに手を入れられて不思議に思うと、
「少ないけど足しに……な?」
父さんは小声で言ってリビングに戻って行った。
「誠也は年越しデートなのに俺は……」
「人生色々あるんだよ。いつかいい思い出って笑えるだろ?」
すんなり兄貴を宥めるのを見て、さすが……と思わず心の中で拍手をする。
笑いながら兄貴におちょこを持たせるのを見ながら俺はそっとリビングから出た。
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