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東雲沙友里
『咲綾との結婚のことで相談したいことがあります。会えませんか?』
メールの文面を読んで、私は顔を顰めた。以前咲綾から紹介された男、秋津直人。私はこの男が好きではない。
親友の彼氏を悪く言いたくはないが、直感で嫌な印象を受けていた。とはいえ、何をされたわけでもない。咲綾に何か酷いことをしたわけでもない。何より、咲綾が彼のことを信じきっている。だから水を差すようなことはしたくなかった。何の確証もないのだから。
しかし、咲綾抜きで会う気にはとてもじゃないがならない。それに、結婚の相談とは言え、親友の彼氏に内密に会うというのはどう考えても不義理だろう。
『申し訳ないですが、咲綾に黙って会うのは気が引けます。メールでなら相談にのるので、それでは駄目でしょうか?』
そう返信すると、すぐに返事がきた。
『それなら大丈夫です。沙友里さん以外にも、同級生の方に声をかけていますので、是非ご一緒に』
要するに、二人きりで会うわけではない、と言いたいのだろう。同級生にも声をかけているということは、結婚式のサプライズか何かでも相談したいのかもしれない。大切な親友の彼氏だ。あまり頑固に断るのも、今後のためにならないか。
溜息を吐いて、私は了承を返した。
「――おひとりですか?」
「すみません。誘ってはいたんですけど、どうも皆さん都合が悪くなってしまったようで」
思わず目を眇めてしまう。何を企んでいるのか、と穿ってしまうのは、私の性格が悪いのだろうか。
しかし、来てしまったものは仕方ない。居酒屋の席につき、私は一杯だけ付き合ってすぐにお暇しようと決めた。
「何にしますか?」
「ビールで」
「はは、似合いますね」
度数も弱くてちょうどいいと思っただけだが、どうせ可愛らしいカクテルなどは似合わない。
頼んだドリンクはすぐに来て、乾杯をし、口をつける。
「それで、相談というのは?」
「いきなり本題ですか」
「すみません。今日はあまり時間がないので、手短に済ませていただけると」
「そうなんですか、残念です。では、ちょっと聞きたいことがあるんですけど――」
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