東雲沙友里

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「ッ寄らないで!!」  じわりと、腹部に熱い感触。刺されたのか、と痺れる頭でぼんやり考えた。 「あんたが……悪いのよ」  咲綾の声が震えている。 「あんたさえいなければ、私は幸せだったのに……! 全部、全部めちゃくちゃにして! 親友だと思ってた……信じてたのに……ッ、地獄に落ちろ!!」  ああ、私と同じ言葉を吐き捨てている。十年も一緒に居たから、似たのかもしれない、なんて思わず笑ってしまった。  十年も一緒にいた私より、大して一緒にいなかったあの男の方が大事だったの。信じられたの。  そう問い詰めてしまいたい気持ちもあった。だけど、答えは分かっていた。私は親友だけど、いつだって咲綾の一番にはなれない。  心から愛していた男に裏切られ。自分のせいで親友を傷つけたと思うくらいなら。私に裏切られた方が、まだ心の傷は浅いのではないか。  それなら、ただの被害者でいられる。私を恨むことで、生きる気力をたもってくれるかもしれない。  咲綾が壊れることだけは、耐えられなかった。だから、あの男の提案を呑んだ。  包丁の持ち手を拭って、自分の手でしっかりと握り直した。万一に備えて、遺書を用意しておいて良かった。これなら、おそらく自殺として処理されるはずだ。  咲綾はあのクズ野郎と別れて、私への復讐も果たして、きっと次へ進めるはずだ。裏切られた傷は残るかもしれないが、癒してくれる人が現れるだろう。  懺悔をするなら、私は確かに咲綾を裏切っていた。もう随分と前から、私にとって、咲綾はただの親友ではなくなっていた。墓場まで持っていくと決めていたが、これでもう誰にも知られることはないだろう。  さようなら、どうか幸せに。    あなたを一番、愛してた。
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