噛み砕け、金平糖。

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 2、3年生が早練(はやれん)から帰ってくるまでに、1年生は素早く朝食を食べ終わり食堂を明け渡さなければいけない。  先輩たちが朝ごはんを食べている間に、今度は1年生が倉庫や道具、グラウンドの整備にはいる。   食堂内は一気に慌ただしくなった。  裕志も、残りの朝食を掻き込んで食器を片付けるため立ち上がる。  生徒らの波に揉まれてると、さっき柳先輩の話をしていた同級生が後ろから話しかけてきた。 「柳先輩が抜けて、その代わりに出るの、なんと工藤だってよ」   「えっ」 「お前のルームメイトだよな」  工藤倫也(くとうともや)。同じ一年生ながら他の生徒とは扱いが違う。陸上の推薦入学の特待生だ。  練習もすでに2、3年生のレギュラーメンバーと同じメニューをこなしている。  「おはようございますっ!」  挨拶の声がウェーブになって聞こえてくる。  食堂の入り口に先輩らの姿が見える。  最後尾に工藤もいた。姿勢の良い細身の長身でいつもムスッとしている。    練習メニューが違うから、裕志は工藤倫也とルームメイトなのにほとんど話したことがない。  ストイックで真面目。愛想がなくて話しかけても単語しか帰ってこない。  お前らとは違うんだという空気感がなんとも苦手で、裕志は居室に戻るのが苦痛だった。そのため帰寮後も共用スペースで他の友人と話したり勉強したりすることが多くなり、いつの間にか居室に戻るのは寝るときだけとなった。  部屋に戻る頃には工藤は寝ているし、朝起きるのは工藤の方が早い。  顔を合わせる時間がない。  入学して2ヶ月、工藤との距離は深くなるばかりだった。    
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