噛み砕け、金平糖。

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 晴天のある日、校内記録会が行われた。駅伝部員は全員1500mと5000mのタイムを測る。  ここでいい成績を残せば、一年生といえどレギュラーメンバーに選ばれる可能性も出てくる。  裕志は数週間前から入念に準備して記録会にのぞんだ。  調子は悪くない。ベストタイムも毎回更新している。  さすがに強豪校だけあって、誰もがそこそこのタイムを出しているが、裕志も負けていられない。  裕志は保育園の頃から足が早かった。  小学校の持久走大会では毎年2位に大差をつけて優勝していた。中学校にあがってからも陸上部で良い成績を出しており、特に中3では主将として駅伝大会に出場して全国大会まで勝ち進んだ。  高校入学して毎日ハードな練習にも耐えてきたし、厳しい食事コントロールもしてきた。身体は中学の頃と比べて大きく逞しくなり、成長期においては難しいとされる長距離選手の体格づくりも出来てきている。  いい結果が期待できそうだ。  裕志は、第3グループとして走り出した。  前半は順調。飛ばしすぎないように集団の中盤につける。そして2周目から少しずつ前の選手を抜いていく。  その作戦だった。のだが。  2周目に入って、まわりのスピードがグンとあがった。裕志もペースをあげるつもりが完全に出遅れた。さらに、想定以上にスピードが早い。  一人ずつ抜いていくはずが、後ろから一人ずつ抜かされていく。  (あれ?おかしいな?)  それでも挽回しようと必死に食らい付くが、前の選手との距離は離れていくばかり。  腕を必死に振り、足も高く上げてピッチをあげようとすると、息が上がり足がもつれ始めた。  それでもまだ、挽回のチャンスはあると思っていた。  ところが最終周にさしかかった頃には、裕志は最後尾だった。  ゴールした後、記録係からタイムを教えてもらい指定の用紙に記入するという一連の作業を淡々とこなした。  現実の理解が追いつかない状態で端の方に座り項垂れていると、第4グループを観戦していた生徒らがワッと声をあげた。 「工藤だ!」  裕志が見ると、堂々とした綺麗なフォームで工藤が1位でゴールするところだった。  柳先輩のフォームに似ていた。
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