噛み砕け、金平糖。

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 その日から、裕志は上手く走れなくなった。  スピードに乗ろうとすると途端に足がもつれ呼吸が乱れる。  それでも、強引に走り込みを続けるが一向にタイムは伸びない。  ある日コーチに呼び止められた。 「オーバーワークだ。もうやめとけ。休養をとることも大事だ」  休んでなどいられるはずがなかった。  裕志は一年生の中で1番遅い。 「とにかく今日はもうあがれ」 「まだ出来ます」  その場を動かない裕志に、面倒臭そうにコーチが告げる。 「いいから戻れ!そんな状態でいくらやっても身にならんぞ」  チームメイトが待機している横を、裕志は俯きながら足早に通り過ぎた。  ささやき声が全て自分に向かっている気がした。  “戦力外”というワードが耳に入った。  胸の内側に黒く濁った靄が充満してる気がした。じりじりと広がりこびり付いて取れなくなる靄。  この靄を吐き出したい。早く早くどこかに吐き出さないと、自分自身が侵食されそうだ。  居室に入った途端、持っていたタオルを床に叩きつけた。振りかぶって何度も何度も叩きつける。  靄が少し晴れていった気がした。 「お、おかえり」  夢中で気付かなかったが、二段ベッドの上段に工藤がいた。  のっそりと起き上がったその表情は驚きに満ちたもので、初めて見る感情をのせた顔だった。
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