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「どうしたんだ?早かったな」
それきりかと思ったら、工藤は慌てたように続けて話しかけてくる。
タオルを叩きつけた勢いのまま、裕志は怒鳴った。
「お前にはわかんねーよ!」
工藤は明らかに狼狽したようだったが、勢いは止められなかった。
「お前は何でもできる。それに甘えずにちゃんとやってるし。今度の大会でもレギュラーメンバーに入ってる。俺はダメだ。ダメダメだ。戦力外通告だってよ。こんなんじゃここにはいられない。ここにいても皆の足を引っ張るだけだ。地元に帰る。陸上やらないんならこの学校にいる意味ねーし!もう辞めるしかない!俺は辞める!こんなはずじゃ、なかったのに……!」
工藤と顔を合わせたくはなかったが、どこに行く宛もなく、二段ベッドの下段に飛び込んで布団を頭からかぶった。
バラバラバラバラ
雨粒が弾けたような音と軽い皮膚刺激。
何事かと思って見ると、布団の上に無数のパステルカラーのイガイガが転がっている。
「金平糖……」
呟いた途端、ドシンと音がして工藤がベッドの2階から飛び降りてきた。
「す、すまないっ、これは違うんだ。母ちゃんが勝手に送ってきたんだ」
大慌ての工藤の手には、封の開いた可愛らしい小袋が握られている。
金平糖はそのリボンの袋からバラけて、二段ベッドの上段から落ちてきたようだ。
“連帯責任”という言葉が頭の端で点滅する。
「おまえっ!なんでこんなの持ってんだよ……!何のつもりだ!お前なんて余裕だからいいけど俺は後がないんだよ」
「違うっ、違うんだ。お願いだ。誰にも言わないでくれ」
「そんな都合よくいくかよ。隠したら俺まで連帯責任になっちまうだろ!」
「頼む、お願いだ。辞めるわけにはいかないんだ」
工藤は長身を180度に折り曲げて頭をさげる。
その姿に裕志は少し冷静になった。
「前にも“これ”が俺のベッドに落ちてたことがあった。何のつもりだ?まさか嫌がらせか?」
「違うんだ……ストレスで。時々無性に甘いものが食べたくなるんだ。それでベッドに隠れてこっそり食べてて、さっきは須屋が急に帰ってきたから慌てちゃって……手が滑ってこぼしたんだ」
「……」
「どうせ俺が金平糖なんて似合わないと思ってるんだろう」
「いや、そんなことは……。どっちかと言うとそんな余裕ない工藤初めて見て驚いてる。っていうか……何ていうか。お前も普通の高校生なんだな」
「当たり前だろう」
ポーカーフェイスが崩れて泣きそうな顔だった。
工藤はまるで鋼鉄の扉を無理やりこじ開けるかのうよに、キリキリと言葉を絞り出した。
「……周りの期待が……怖いんだ」
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