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なんでお前じゃなきゃダメだったんだ。お前じゃ満たされない。裸の男は入間をベッドへと誘い、そのまま彼の服を剥いだ。
思えばこの男と巡り合ったのは、ほんのささいな欲求不満からだった。
女のふりをして近づいたのは入間の方であり、「かなやん」のハンドルネームに誘われて引っかかったのがこの男で――。
最初は入間がこの男に抱かれて、彼の欲望を満たしていた。そのはずが、この男は女との浮気を繰り返すようになって入間を抱かなくなった。彼はネコにしかならなくなった。自分じゃこの男を満足にいかすこともできないのか。
いつの間にか立場が逆転し、この男じゃ満たされない自分がいる。
だから今朝、あの子に名刺を渡して連絡先も交換した。
どこかで自分も新たな出会いを求めているのだろう。
余計なことを思い出して、セックスに集中ができなかった。中途半端に終わらせたくはなかったが、この男の退屈そうな顔を見る限り、もう終わらせたほうがいいのだろう。この男が射精を済ませたら強制的に終わりだ。
「――あっ! かなや、んっ!」
艶のある黒い長髪を揺らしながらの喘ぎ声に、身体は嫌でも反応してしまう。
だけどもうこの関係を終わりにしたい。
「ねぇ、さっきからずっと鳴ってるよ? てか先シャワー使っていい?」
「ああ、うん。いいよ」
入間は満たされないまま動きを止めて相槌を打つ。
こんな真夜中にスマートフォンのバイブレーションがカバンの中で鳴り続けるのは、流石にこいつも不審に思ったか。風呂場にスマートフォンを持っていくのが見えた。また誰か誘う気だろうか?
男がシャワーを浴びている間に、入間は青戸に返信を入れた。今夜のこのやるせない気持ちを青戸にどこまで正直に話していいものか。青戸は入間のことをまだ何も知らないでいる。約束の返事はすぐに来た。
「純也……ごめん」
入間は思わず一言小さく嘆いた。
ふたりは公園で会う約束を交わした。
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