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八
四月、明日から小学二年生になる郁也はこの日、一つの決意をしていた。
「お母さん」
新学期に向けた郁也の準備を手伝っていた母が、こちらを振り返る。郁也はいくらかの緊張を孕みながら、小さく言った。
「お願いがあるの」
「なあに?」
「……あのねお母さん、お小遣いが欲しい」
息子の未だかつてない要求に、母は驚いたような顔を作る。
「友達と一緒に、買いたいものがあるの。だから、その……少しでいいんだけど、くれない?」
昔、母から教わった。年が離れていようが、仲がよければ友達なのだと。
次の瞬間だ。
母が、その場に頽れた。顔を覆い、目を赤くしながら、声を上げて泣き出す。
「いいわよ」
やがて返ってきたのは、小さな呟き。
「素敵なものを、買ってきて」
「うん。ありがとう」
郁也は、嬉しくなって頬を綻ばせる。
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