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 翌日、私は勤務先の玩具屋にいた。次々と来る客を相手に会計をしていたのだけど、行列が途切れて店内を見渡せるようになった時、その声は聞こえてきた。 「お母さん、これ買って」  決して大きい声ではないはずなのに、私の耳はしっかりとそれを拾った。  うちの店は入り口付近に特別コーナーを設けていて、そこでは、いい玩具なのにあまり売れないものを展示している。脇には店員が書いた説明文を添えて、一ヶ月ごとに品を変えるのだけれど、月の初めなので今日取り替えたばかりだった。  声を上げている男の子はそこに立ち、置いてある白い箱と母親を見比べている。  彼が欲しがっているのだろう商品は、私が説明を書いたものだった。なんの飾り気もない真っ白い箱に入った人形。  透き通るほど青い目をして、肩くらいまでの癖毛が生える頭のてっぺんに子洒落た冠が付いている。繊細な造りで、髪の一本一本まで本当の人間かと思うほどよく作りこまれている。  ああ、懐かしいな。私は目を細める。  その時、おやと思って欲しい欲しいと母親に訴える少年をまじまじと凝視した。  やっぱりだ。  それは、昨日隣に越してきた飯沼家の母と息子に違いなかった。
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