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 私の母は昔、俗に言う教育ママだった。幼稚園の頃から塾に通わせて、先取り先取り。かと思うと、女の子は勉強だけではダメだとお茶の教室に行かせたり。  子供時代の私は、自由に飢えていた。時間があったら勉強しなさいと言われ続けた故、のんびり過ごす時間を願っていた。  全く休憩時間のないスケジュールに疲れ果て、家を飛び出した日、私はその人形と出会ったのだ。  ゴミ山で出会った彼を、私は丁寧に汚れを落としたあと愛用していたクッキーの箱に入れて、それをさらに引き出しの中にしまった。  だから、この間特別コーナーにあの人形が並べられることになった時は大いに驚き、そして説明文を書く役を任せてくれと名乗り出た。  特に流行っていたようにも思えないのに、まだ廃版になっていないんだーー。  そしてまた、かつての私と同じようにあの人形に興味を示した郁也には、親近感を覚えた。  彼くらいの年齢の子がねだるようなプラモデルやらは、あの店内にたくさん並べてあったと思うのに、それらよりも青い目の王子様に惹かれる彼の感性は良い意味で独特なのだろうと感心したものだ。  初めて話をした日から、彼とは何回か会ったので、その度にあの人形の話をした。説明の文は私が書いたんだよ、と言うと、郁也はぱちぱちと瞬きをした後、「お姉さん、いい人」とだけ告げた。なにをもっていい人なのか定義が曖昧だったけれど、好意を覚えられているのは嬉しかった。  実のところ私は、彼を可愛いと思っている節がある。おそらく学校をさぼってアンの青春を読んでいただろうあの日、私がそのことを指摘すると、彼は大人に怒られることを決意したように緊張の幕が張った猫のような顔になった。それが可愛らしくて、思い出すだけで頬が緩む。  それに、彼は私に少し似ている。かつての私は、辛すぎる現実に耐えかねて、空想の世界でも並行して生きていた。動機は違うにしろ、彼もおそらく別世界の住人なのだろう。  そんなこんなで、隣人である飯原家とはそれなりに仲がいい。私としては母親の方もいい人だと思うけれど、郁也との間には一つの壁があるようだった。
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